「あ、の……。烏月様……」

 由椰がドキドキしながら袖の中に手を入れようとしたとき、

「おれも今夜はだいぶ酒が回った。そろそろ部屋に戻る」

 烏月が、胡座の足を崩して膝を立てた。ゆらりと立ち上がった烏月が、そのまま去ろうとする。

「烏月様、お待ちください……!」

(このままでは、お礼を言う機会を失ってしまう……)

 慌てた由椰は、膝をつくと、咄嗟に烏月の着物の袖を引っ張った。

「な、に……」

 酒に酔っていたのもあり、不意打ちを受けた烏月が、ぐらりと後ろによろける。

「烏月様……?」

 ゆっくりと倒れてくる烏月の背中を前に、由椰は顔面蒼白になる。焦って手を広げると、尻餅をついた烏月の背中が由椰の腕の中に落ちてきた。

「申し訳ありません……。大丈夫ですか?」

 腕にずしっと乗っかってきた重みに耐えながら尋ねると、烏月が肩越しに振り向く。その瞬間、酒でほんのりと朱に染まった烏月と額がぶつかり合いそうなくらいに距離が近付き、由椰は口から心臓が飛び出しそうになった。