「大丈夫ですよ、風音さん。炊事場の後片付けが終わるまでは、座敷でゆっくりしていてもらっても……」

 由椰が笑って言うと、「だめですよ、由椰様」と風音がきっぱりと首を横に振った。

「この人たちを甘やかせば、朝までここでぐっすりです。ほら、泰吉さん、水を飲んで。兄様も」
「えー、由椰様がいいって言ってるんだから、もう少しここでゆっくりさせてよ」
「だめですよ、泰吉さん。もう夜も遅いんですから。ほら、兄様もしっかりして」

 風夜もいつのまにか座卓に肘をついてウトウトとし始めていて、見た目よりも酔っているらしい。

 しっかり者の風音は酔っ払いの泰吉と風夜を叩き起こすと、ふたりの背中を押して炊事場の外へと連れて行く。

「このふたりを別の部屋で寝かせたら、後片付けを手伝いますね。しばらくしてから戻ってきます」

 風音はそう言うと、烏月と由椰を残して炊事場を出た。戸を閉めるとき、風音が由椰にだけわかるように、こっそりと目配せをする。

 風音からの無言の合図を受け取った由椰は、はっとした。

 小上がりの座敷には、烏月と由椰のふたりきり。風音は、由椰が烏月に耳飾りを渡せるように、意図的に泰吉と風夜を炊事場から遠ざけてくれたようなのだ。

 由椰の着物の袖の中には、風音には頼んで買ってきてもらった耳飾りが入っている。機会を見計らって渡すつもりでいたが、心の準備のないままに烏月とふたりきりになって緊張してしまう。

 しかし、せっかく風音が気を利かせてくれたのだ。烏月に祭りに連れて行ってもらったお礼を言うなら今しかない。