その日の夕飯は、泰吉の希望ですき焼きだった。

 麓の祭りの最終日に偵察のために人里へ降りていた泰吉が、美味しそうな肉を持ち帰ってきたのだ。

「祭りの期間は山の見回りや麓の偵察が普段より忙しかったし、美味しいものでも食べましょう」

 泰吉は肉や野菜のほかに、酒を持ち込んでいて、烏月や風夜にも飲むよう勧めている。

 酒を飲みながらの食事は楽しそうで、たくさん用意したすき焼きの鍋は、あっという間に空になってしまった。

「あ〜、美味かった」

 鍋のシメにうどんを食べて、お腹がいっぱいになると、泰吉がごろんと仰向けに転がった。

 酒を飲んで気が緩んだのか、泰吉の背中の横からふわっとした茶色の尾が見えている。

「由椰様、今日もありがとうございます。あれ、なんか由椰様の金魚、増えてません? いーちぃ、にーい、さーん……」

 仰向けに寝転んで水槽の硝子に指を伸ばす泰吉は、どうやらかなり酔っているらしい。

「おい、狸。調子に乗って飲みすぎだ」

 呆れたように泰吉を見下ろす風夜も、今夜は少し顔が赤い。

「飲みすぎなのは兄様もですよ。眠ってしまって由椰様や烏月様に迷惑をかける前に、ここから引き上げますからね」

 氷の入った水をふたつ運んできた風音が、泰吉と風夜の前に置く。それから、ぼんやりと金魚を数えている泰吉を起き上がらせた。風音は小柄な見た目に反して、結構な力持ちだ。

 だが、風音には起こされたあとも、泰吉は座卓に突っ伏してぐだぐだとしている。