「由椰様、ほんとうにこれでよろしかったのですか?」
「もちろん。我儘を聞いてくれてありがとうございます、風音さん」
「いえ。由椰様がよろしいのなら、いいのですけど……」
「いいんです。もともと執着があったものではないですし。やはりどうしても、烏月様にお礼がしたいので」
「そうですか……」

 にっこりと笑う由椰に、風音が不服そうな顔で小さな木箱を渡す。

 由椰がそっと蓋を開けると、黒瑪瑙の耳飾りが艶やかに光った。それは確かに、由椰が祭りの夜に見たものだ。由椰はそれを、祭りに連れて行ってくれたお返しに烏月に渡したいと思っていた。

 日々の料理は屋敷に置いていただいているお礼に作っているから、お返しをするなら料理以外。考えているうちに思い浮かんだのが、祭りの夜に見た黒い耳飾りだ。

 なんとかしてあの耳飾りを手に入れられないだろうか。そう思った由椰は、風音に内緒のお願いをした。

「鼈甲の簪をお金に変えて、黒瑪瑙の耳飾りを買ってきてもらえませんか」

 由椰を頼みを聞いた風音は、珍しく難色を示した。