「そして厄介なことに、お前はもう三百年もの間、姿形を変えずに現世にとどまり続けている」
「三百年……?」
驚く由椰に、風夜がうなずく。
「烏月様の見立てによると、お前が神無司山の祠に閉じ込められたのは三百年前。普通の人間であれば、何日も飲まず食わずでいれば、命を落とし、肉体が朽ちる。そうして、肉体を失った魂はまた人の世へと還っていくのだが……。なぜかお前の肉体は三百年もの時を経ても朽ちることなく、洞窟の中で元の姿を保ったまま眠り続けていた。要は、コールドスリープのような状態になっていたと言える」
「こーる……、なんですか?」
「別に理解する必要はない。三百年も前の人間には、どうせ理解できぬ言葉だ」
困惑気味に首を傾げる由椰に、風夜が冷たく言い放つ。
「ともかく……。姿を変えず、肉体も朽ちることもなく三百年間眠り続けていられたお前は、洞窟に入る前に伊世様の加護を受けていた可能性が高い」
「伊世様とは……?」
目覚めてから何度か耳にするその名前を口にすると、風夜が由椰を睨め付けてきた。
「伊世様は、今は亡き神無司山の女神。そして、烏月様の双子の妹君だ」
「山の女神様……。どうしてそのような方が、私のような者にご加護を?」
「そんなこと、こちらが聞きたい」
風夜が、少し面倒くさそうに息を吐く。