人通りの少ない脇道から屋台の並ぶ参道に戻った由椰と烏月は、祭りの見物客のあいだを抜けながらゆっくりと山門に戻った。大きな山門の向こうには石段が伸びていて、その下で風音たちが待ってくれている。

「足元に気をつけろ」

 隣を歩いていた烏月は由椰にそう言うと、山門をくぐって、先に石段を下りていく。

「はい」 

 右腕に金魚の袋を提げ、左手にりんご飴を持った由椰が、転ばないように烏月のあとを追おうとすると、

「由椰?」

 ふいに、見知らぬ声に呼び止められて肩を掴まれた。

 ドキリとして振り向くと、鈍色の着物の見慣れない顔の若い男が由椰の目をじっと見てきた。

「その目の色、やっぱり由椰だな。ストーン・アクセサリーの出店の前によく似た子を見かけたから、まさかと思って探してたんだ。見つけられてよかった……。お前も、生まれ変わっていたんだな」

 由椰が早口で話す男に驚いていると、彼が少し不安そうに眉根を寄せる。

「もしかして、由椰には三百年前の記憶はないのか?」

 平然とした顔で「三百年前」という言葉を口にする男に、由椰は警戒心を抱く。

「あなたは……?」
「今の名前は違うけど、三百年前の名は与市(よいち)だったよ」
「与市……」

 はっきりとは思い出せないが、由椰にはその名前になんとなく聞き覚えがあった。