屋敷の炊事場で泰吉から祭りの話を聞いて、ひさしぶりにりんご飴の記憶を思い出したとき、もしかしたら人の世への未練も思い出しかけているのかもしれないと思った。

 けれど……。今夜の祭りも、烏月が差し出してきた赤いりんご飴も、人の世への未練を思い出させるのではなく、由椰の記憶を新しいものに塗り替えてしまった。

 もし次に由椰がりんご飴を手に取ることがあれば、そのときに思い出すのは、母に連れて行ってもらった祭りの思い出ではなくて、烏月と一緒に来た祭りの記憶だろう。

「ありがとうございます」

 烏月の手からりんご飴を受け取る瞬間、ドクンと由椰の胸が鳴る。

(まだもう少し、烏月様の元にいたい——)

 感謝の気持ちとともに、自分がそんな願望をいただいてしまっていることに、由椰は戸惑いを隠せなかった。