「魔除け効果のある石だ。それが気に入ったのか? あんたには、もっと派手なやつのほうが似合いそうだけど」
左右色違いの目をじっと見られて、由椰は少し引き腰になる。けれど、他にも客もいない以上、黙って立ち去ることもできなかった。
「いえ。私ではなく、これが似合う方のことを思い出していたんです……」
「恋人へのプレゼント?」
「い、いえ……。恋人だなんて滅相もない……!」
「恋人未満の相手へのプレゼント? 買うんだったら、少しまけるよ」
慌てる由椰に、店の男がにこっと愛想良く笑う。
「でも私、お金を持っていなくて……」
首を横に振りかけて、由椰はふと髪に挿した簪のことを思い出した。
「あの……、この簪と引き換えにその耳飾りをいただくことはできないでしょうか」
由椰が少し首をうつむけて鼈甲の簪を抜こうとすると、店の男が笑顔を崩し「はあ?」と不快げにため息を吐く。
「何言ってんだよ。今どき、物々交換なんてないだろ」
「でも、これは鼈甲の簪で……」
「それ、本物って保証ないよな。買うなら、ちゃんと金持ってきな」
不遜な態度で追い払われて、由椰は店の前から退くしかなかった。
黒瑪瑙の耳飾りは気になるが、男の言うとおり、金のない由椰にはどうすることもできない。
今度こそ、元いた場所へと戻ろうと歩いていると、
「由椰様……!」
参道から脇道へ逸れる途中で、後ろから呼び止められた。由椰が振り向くと、風音がほっとしたように息を吐く。