由椰が諦めて、さっきの場所に戻ろうと振り向くと、参道の隅に髪飾りや耳飾り、指輪などの装身具を売る店を見つけた。食べ物や遊戯の店と比べると流行っておらず、椅子に座った屋台の店番の男は暇そうに手に持った小さな四角いものをぼんやり眺めている。
由椰が店に近づいていくと男はちらっと顔をあげたが、またすぐに手元の小さな四角に視線を戻した。
装身具の店に由椰以外の客はいないが、陳列台の箱の中には、キラキラ輝く装身具が数多く並べられている。
こういったものは由椰には縁のないものだったし、それらを欲しいは思わないが、その美しさには純粋に心を惹かれる。
並べられた装身具を端からひとつひとつ眺めていると、細い針がついた黒い石の耳飾りがふと由椰の目に留まる。それを見た瞬間に思い浮かんだのは、烏月の顔だった。
烏月の左耳には、瞳の色と同じ金の耳飾りが付いている。それはとてもよく似合っているが、由椰が今目にしている黒い石の耳飾りも、濡羽色の髪の烏月によく似合いそうだ。
(今日のお礼に差し上げたら、喜んでいただけるでしょうか……)
由椰が黒い石の耳飾りを熱心に見つめていると、
「黒瑪瑙だよ」
それまで由椰に興味なさそうだった店番の男が、顔をあげた。