烏月が風夜と共に消えると、それまであまり気にならなかった和太鼓の音がやけに大きく由椰の耳に響いた。

 太鼓の音に混じって歌や音楽も聞こえ始める。櫓のあるほうで、何かが始まったようだった。にぎやかで楽しそうな気配が、由椰の好奇心をくすぐる。

 烏月はまもなく風音が来ると言ったが、由椰を祭りへと送り出してくれた鴉天狗の少女はまだ姿を見せない。

(少しだけ様子を見てきてもいいでしょうか……)

 由椰は立ち上がると、金魚の袋を揺らさないように気を付けながら、烏月と共に歩いてきた道を参道のほうに引き返した。

 参道に戻ると、櫓の周囲にたくさんの人が集まっていた。聞こえてくる見物客の話から想像するに、櫓の近くで踊りが始まっているらしい。

 下駄を履いた足で由椰も懸命に背伸びをしてみたが、聞こえてくるのは和太鼓と歌ばかりで、踊りは見えない。