金魚の袋の向こうに映る烏月から、由椰がそっと視線をそらすと、

「少し休むか」

 烏月が提灯のあまりかかっていない、参道の脇道に視線を向ける。

「はい」

 由椰が小さくうなずくと、烏月は人通りの少ない脇道へと由椰を連れて行ってくれた。そこの低い石垣に腰をおろすと、由椰は草履を脱いで足の指を握ったり開いたりと動かした。

「疲れたか?」
「足が少し。でも、それ以上に楽しいです。幼い頃に母に連れて行ってもらった祭りよりも、ここは随分と規模が大きくて華やかで」

 ふわりと笑う由椰に、烏月が「そうか」と頷く。

「烏月様、今日は本当に――」

 由椰が感謝の気持ちを伝えようとしたとき、突然、ざわりと空気が揺れた。

 つい一瞬前まで、穏やかな表情で座っていた烏月が、それに気付いて顔を強張らせる。次の瞬間、周囲の木々が騒がしく風に揺れ始め、烏月と由椰の前で小さな風の渦が巻き起こり、風夜が姿を現した。 

「烏月様、失礼いたします」

 背中の黒い羽をたたむと、風夜が烏月の前で膝をつく。