「あ、の……」

 由椰の心臓が不穏な音をたてる。ふたりの男を戸惑い気味に見つめ返すと、風夜が面倒くさそうにため息を吐いた。

「だから、初めに言っただろう。『やはり人違いだった』などという話は通用せぬ、と」
「そんなこと言われても、仕方ないだろ。どのみち、ほっとくわけにもいかないんだから」
「わかっている……」

 ふたりで少し言い合ったあと、風夜が由椰に視線を向けた。腕組みをして立って顎を少し突き出すようにして見下ろしてくるその男は、烏月のそばでは恭しくかしこまっていたくせに、由椰に対しては、やや高圧的だ。

 由椰がゴクリと唾を飲み込んだとき、紫の瞳の男が口を開いた。

「娘、お前が今置かれている状況を説明しよう。ここは二神山(ふたがみやま)。その土地神である烏月様の屋敷だ」
「二神山……」

 由椰の住んでいた村は神無司山の麓にあったが、それと隣り合うように並んでいたのが二神山だった。

「数日前、ここにいる泰吉が、神無司山との境で不思議な気配を感知した。伊世様の気配がするという泰吉の鼻を頼りに行ってみると、神無司山の奥の祠にお前が眠っていた。このアホが、間違いなく伊世様だというから連れてきたが……」
「私の名は由椰です」
「そのようだな」

 風夜にジロリと横目で睨まれて、泰吉が肩を竦める。