「烏月様、掬いました!」
由椰がつい興奮して浴衣の袖を振って叫ぶと、烏月が口元に手をあてる。笑いをこらえているような烏月の様子を見て、由椰は恥ずかしさに頬を火照らせた。
(私ってば、なにを子どものように……)
慌てて下を向くと、もう一度、金魚の泳ぐ桶を見つめる。もう一、二匹掬おうと挑戦したが、それからは最初のようにうまくはいかず――。
店番の男が、水の入った透明の袋に由椰のとった赤い金魚を入れてくれた。それから銀の丸い容器で黒い金魚を一匹掬うと、
「ひとつはおまけね」
と、赤い金魚とともに透明の袋に入れて渡してくれる。
「ありがとうございます」
由椰が、透明の袋の中で尾びれを揺らす赤と黒の金魚を眺めていると、烏月がゆっくりと近付いてきた。
「二匹もとれたのか?」
「ひとつはおまけをしていただきました」
「よかったな」
満足そうに口角をあげる由椰に、烏月が優しいまなざしを向ける。金魚の袋越しに揺らいで見えた烏月の表情に、由椰の胸がドキリと鳴った。
初めて会ったときから、美しい烏月の姿に由椰は胸の高鳴りを鳴ることが何度もあった。それは、神様としての烏月の尊さに心が動き、三百年の眠りから目覚めて居場所をなくした由椰を屋敷においてくれた感謝の気持ちから起きているものだと思っていた。
だが、今宵は、ふいに向けられる烏月の優しいまなざしに、由椰の胸はきゅっと縮まったり、激しく動悸したり。ときどき、ひどく落ち着かない。