「あの、私はまだ……」

 ただ金魚を眺めるだけのつもりが、金魚を掬うための道具を渡されて困っていると、烏月が由椰の横から硬貨を三枚男に手渡した。

「やってみてもいい。その代わり、掬った魚を連れ帰るなら、お前がきちんと世話をしろ」
「よいのですか?」
「お前に任せる」

 金だけ払って、烏月がふいっと屋台の端にずれる。少し離れたところに腕組して立った烏月は、そこから由椰が金魚を掬うのを見ているつもりのようだ。

「空いてる場所で掬っていいよ」

 店番の男に言われて、由椰は着物の裾を押さえながら桶の前にしゃがむ。それからポイを持った袖を捲ると、桶の中を泳ぎ回る小さな金魚をじっと見つめた。

 周りで金魚を掬っている人を見ていると、和紙でできた網は長く水につけると弱くなり、簡単に破れてしまうらしい。

 水面に網を差し入れるだけで、危険を察知して四方八方に逃げていく金魚を掬うのは随分と難しそうだ。赤がいいとか、黒がいいとか、大きいほうがいいとか、小さいほうがいいとか。選んで掬う余裕はない。

 しばらく桶の中を見つめていた由椰は、水面に立った波が落ち着いて、金魚たちの動きが緩やかになるのを慎重に見極めてから、ポイを水中に差し込んだ。

 丸い和紙の中央に赤い金魚をとらえたところをすばやく掬い上げて手元の容器に移すと、その中で、金魚の赤い尾びれがゆらりと揺れる。