「おいしいです」
「それはよかったな」
「はい。烏月様は、なにか食べてみたいものなどありますか」
わたがしを食べながら由椰が訊ねると、烏月が参道の屋台を見回す。それから、「おれは焼きそばだな」と小さくつぶやいた。
「蕎麦ですか? 私も蕎麦は大好きです。これを食べたら探しに行きましょう」
「たぶん、その蕎麦ではないぞ」
そう言われても由椰にはよくわからなかったが、烏月が食べたいと言った「焼きそば」は由椰の初めて見る食べ物だった。そばというから、麺であることには違いないのだが、細くて縮れた麺に肉や野菜を混ぜて焼いたもので、とても香ばしく食欲をそそる匂いがする。
烏月に分けてもらった焼きそばは、味が濃くて甘辛かった。
「私も、これを屋敷で作ることができるでしょうか?」
「泰吉に食材を調達させればできるんじゃないか。そんなに焼きそばが気に入ったのか?」
「はい。烏月様が美味しそうに食べられていたので」
見上げて笑いかけると、烏月が「そうか」と、由椰から視線をはずす。わずかにうつむいた烏月の左耳で、金のピアスがきらりと揺らめいた。その向こうで、パンッと何かが弾ける音がする。
ふと見ると、由椰よりも小さな男の子が、屋台の下で筒の長い銃を構えていた。