屋根に書かれた文字が読めず、それぞれの屋台で何が売られているのかはよくわからないが、すれ違う人が手に持っていたり、歩きながら食べているものは、由椰が人里で暮らしていた頃には見かけなかったものばかりだ。

 なかでも、由椰が特に気になったのは、子どもが好んで食べている白いふわふわとした食べ物だ。

 由椰が、母親に手を引かれながら歩いていく小さな子どもの手元をじっと見ていると、烏月がふっと息を吐くように笑う。

「腹が減ったか? 何が食べたい?」
「では、あの白い雲のような食べ物を……」
「雲……? ああ、わたがしのことか」

 一瞬考えるように小首を傾げた烏月が、今度はくつくつと喉を鳴らして笑い始めた。

「それなら、まず白い雲を買いに行くか。他にも食べたいものがあれば、遠慮せずに言えばいい」
「では……、その、わたがしと言うものと、りんご飴を」
「どちらも甘い砂糖菓子じゃないか」
「あの白い雲は、お砂糖でできているのですか?」
「あれは一度砂糖を溶かして細い糸状に固めたものだ」
「そうなのですね」

 烏月の話を聞いて、由椰はますます、白い雲のような食べ物が気になってしまう。

 烏月は由椰をわたがしの屋台に連れて行くと、参道にできていた短い列に並んだ。

 筒状の機械の中で、白い砂糖の糸が割り箸に巻き取られてふわふわした雲のように大きくなっていく様はとても不思議だ。

 わたがしが作られていく過程を目を輝かせながら子どものように見つめる由椰を見て、烏月がまたくつくつと笑う。

「はい、どうぞ」

 屋台の店主からわたがしを受け取ると、由椰はさっそくそれを口に含んだ。やわらかなわたがしは、口に入れればすぐに溶けてしまう。その感触も、べたつく甘さも、由椰にはとても新鮮だった。