風夜とともに部屋に取り残された由椰は、ひざまずいたまま途方に暮れた。
帰れと言われても、どこへ帰ればいいのだろう。生贄として追いだされた自分に、帰る場所などどこにもない。
村の人たちも「村を救うための生贄」という名目で体よく厄介払いした由椰が戻ってきては困るだろう。
黙ってうつむいていると、烏月を追って部屋を出て行った泰吉が戻ってきた。
「……で? この娘はどうするんだ? 烏月様は追い出せとおっしゃったが、そのお言葉通りにこのまま屋敷から出すわけではないんだろう?」
風夜が、由椰に気怠げな眼差しを向けながら泰吉に訊ねる。
「そりゃ、そうだろ。烏月様は、一週間でこの娘の魂を清めて人の世に戻せとおっしゃってる」
「やはり、そうか。不自然なカタチで何年も現世にとどまっていた人間を、今さら人里に返すわけにはいかないからな」
「そうだな。それに、麓の村だってとうの昔になくなっているし……」
「おい、狸。そのことは……」
風夜が、由椰を気にしながら泰吉の言葉に制止をかける。だが、由椰はそれを聞き逃さなかった。
「それは――、麓の村がなくなっているとは、どういう意味でしょうか。さっき出て行かれた方は、三日前に雨が降ったと……」
「……」
由椰がそろりと視線をあげると、泰吉と風夜がそれぞれに、気まずそうな、憐れむような目で見つめてきた。