先ほどまでいつもと同じ紫苑色の着物を着ていたはずの烏月が、濡羽色の髪によく似た黒の浴衣に身を包んでいる。いつものきちんとした着物姿も良いが、少し緩めに着こなした黒の浴衣もよく似合っている。

 神様らしい気品を残しつつ、人里に降りても浮かない、けれどそれでいて艶っぽい烏月の姿に見惚れていると、烏月が口端をあげて僅かに目を細めた。

「よく似合っているな」

 烏月に優しい目で見つめられて、由椰の心臓がドクンと跳ねる。

「い、いえ……。私は……。よくお似合いなのは、烏月様のほうです。私なんかが、祭りでお隣を歩いても良いのでしょうか……」
「贈った鏡は見てきたか?」

 自身なさげにうつむく由椰に、烏月が訊ねる。

「いえ……」

 由椰が小さく首を横に振ると、控えていた風音が前に出て木箱の蓋を開けた。下を向く由椰の横で、烏月が鏡を取り上げる。

「顔をあげてみろ」
「いえ……」

 烏月の命令と言えど、こればかりは受け入れられない。頑なに拒んでいると、烏月の手がふいに、由椰の帯に回った。そのまま、ぐいっと腰を引き寄せられて、反射的に由椰が顔をあげる。

 そのとき、目の前に鏡がちらついて見え、由椰は慌てて顔の右側を手のひらで隠した。

 烏月に引き寄せられた由椰は、金色の目を覆い、ひどく怯えた顔で手鏡に映っている。

 青い目をした由椰の顔の左半分。初めて見る自分の顔は、思ったよりも頬が痩せていて、色が白く、不安そうで……。なんだか少し不健康そうに見える。

(これが、私……)

 由椰が鏡から顔を背けようとすると、烏月が顔の右半分を覆っている由椰の手に手をのせた。