優しい心遣いを嬉しく思っていると、

「由椰様、まだお化粧が終わってないですよ」

 風音が由椰の正面に座る。

「え、まだですか?」
「もちろんです。今日は烏月様とおふたりでのデートなのですから」
「ふ、ふたりで……?」

 たった今初めて聞かされた事実に動揺する由椰に、風音が白粉(おしろい)をはたいて、頬紅を塗り、紅を付ける。化粧が終わると、風音が、今度はそばに置いていた平たい木箱を由椰の前に出してきた。

「最後になりますが、こちらは烏月様から由椰様に」
「なんでしょうか」
「どうぞ開けてみてください」

 風音が悪戯っぽくクスリと笑う。由椰が木箱の蓋を開けると、寄木細工の手鏡が入っていた。

「これは……」
「着物も簪もとてもお似合いですので、ご自身のお姿を鏡で確かめてみるといいですよ」
「でも……」

 烏月が由椰のために用意してくれた手鏡はとても美しい。けれど、由椰にはそれを手に取り上げてみるのが怖かった。