「髪飾りはどうしましょうか。いくつか用意したので、由椰様の気に入るものがあれば……」
風音がそう言って、そばに置いた木箱を開ける。その中には、浴衣に似合いそうな簪がいくつか入れてあった。それをしばらくじっとみつめたあと、由椰はふと思い立ったように立ち上がる。
「どれもとても素敵なのですが……、私が持っているものはどうでしょうか……」
せっかくいろいろと用意してくれたのに申し訳ないとも思いつつ、由椰は屋敷に来たときからずっと部屋の隅に置いたままにしてある木箱を風音の前に差し出した。その蓋を開けると、鼈甲の簪が出てくる。
「これは由椰様の? とても美しいですね。それになかなか高価なものでは……」
「この簪は神無司山に生贄に出されるときに、村長から預かったものなんです」
木箱の簪を見て感嘆の息を吐く風音に、由椰は眉根をさげてそう答えた。
「預かった――、という言い方をするのは、これが元は母が受け取るものだったからです」
「由椰様のお母さまが?」
「はい。母は麓の村の長の娘でした。奉公に出た先で、素性の知れぬ男と間にできた私を身籠らなければ、どこかの町人の元にでも嫁がせようと考えていたのでしょう。これは、村長が母が嫁ぐときのために用意していたものだったそうです。私が麓の村を出るときに、村長が餞別にとくださいました。必要のなくなったものだから、私と一緒に厄介払いをしようと考えたのだと思います。ここで目覚めたあと、木箱にしまったままずっと蓋も開けずにいたのですが……。今夜、祭りに連れて行っていただけるならこれを付けていけないかと……」
「では、こちらをお付けしましょうか」
風音は由椰から木箱を受け取ると、美しく輝く鼈甲の簪を大切にそっと取り出した。
「せっかくいろいろと用意してくださったのに、すみません……」
「いいのですよ。由椰様はあまりわがままを言われないので、こうしてご希望を教えてくださるのはとても嬉しいです。この簪を付ければ、お母さまとも一緒に祭りに出かけるような気持になれますね」
風音がそう言って、由椰の髪に簪を刺してくれる。