「すぐに部屋に戻り、風音に準備を手伝ってもらうといい」
「何の準備ですか?」
「祭りに出かける準備だ。整い次第、すぐに出かける」

 烏月の言葉に、由椰の心臓がドクンと跳ねる。

「祭りに連れて行ってくださるのですか? 烏月様が?」
「泰吉から、お前が祭りに行きたがっていると聞いたが、違ったか?」
「ち、違いません……!」

 泰吉から二神山の麓で祭りが行われると聞いた由椰は、ただ、記憶に残る思い出を話しただけだ。

「祭りに行きたい」とはっきりと言ったわけでもないはずなのに……。泰吉が上手に気を回してくれたのだろう。

 それにしても、烏月が由椰を祭りに誘い、自らも人里に降りることを決めるなんて……。どういう心境の変化だろう。

「ですが烏月様、なぜ急に……?」
「特に理由などない。早く準備しないと、おれの気が変わるぞ」
「それは困ります……」
「由椰様、一度お部屋に戻りましょう。着替えを手伝います」
「着替え……?」

 そんなことを言われても、由椰は今着ている普段用のもの以外に手持ちがない。この前人里に降りたときに着た千草色の訪問着は、風音がどこかから借りてきてくれたものだ。