夕暮れ時。祠の掃除を済ませた由椰が炊事場に向かうと、烏月が待っていた。

 小上がりに足を組んで軽く腰かけ、座敷にあった飾り物の独楽を退屈そうに指で弄んでいた烏月が、由椰の気配に気付いておもむろに顔をあげる。

「烏月様……? 今日はまだ、食事の準備はできていませんよ」

 一日に何度か細かに食事をとる由椰と違って、基本的には食事を必要としない烏月たちは夕餉しかとらない。それに合わせて食事の準備をしている由椰は、いつもより早い時間に炊事場にいる烏月に驚いた。

「急いで何かご用意しますね」

 なにか、すぐに出せるものがあるだろうか。

 由椰は慌てて、「冷蔵庫」と呼ばれる箱の扉に手をかける。由椰には、いまだにどんな妖力が使われているのかわからないのだが、食材をなんでも保存しておける不思議な箱なのだ。

 そのなかに、この前、泰吉たちと人里に降りたときに持ち帰った果物の「ゼリー」があった。

「烏月様、食事ができるまでゼリーを召し上がりますか?」

 由椰が、桃や葡萄や蜜柑など果実入りのゼリーをいくつか取り出そうとすると、「いや、今はいい」と、烏月が小さく首を振る。