部屋に戻る途中、烏月の胸に、あたたかな気がまた入り込んでくる。烏月は足を止めると、自室ではなく屋敷の入口の方へと引き返した。
廊下から三和土へと静かに草履をおろし、そっと屋敷の戸を開けると、祠の前で手を合わせる由椰の背中が見えた。
祠に祈りを捧げる薄い桜色の着物を着た小さく華奢な背中が、烏月の中の近くて遠い記憶と重なる。
『烏月様がこれからもずっと健やかに過ごされますように……』
由椰を見つめる烏月の胸に、彼女の祈りの声が届く。
やさしい祈りに体全体があたたまっていくのを感じながら、烏月は由椰に気付かれないうちに屋敷の戸を閉めた。