「答えられないのなら、すぐにでもここを去れ。目障りだ」
「ですが……」

 咄嗟に由椰が顔をあげると、烏月がため息とともに憂いを孕んだ声を零した。

「他人のために魂を捧げるなど、どうかしている。消えてしまいたいのは、おれのほうだ。もう何百年も前から……」
「え……?」
「だいいち、おれは三百年も現世にとどまり続けた古い魂は喰らわない。おとなしく、人の世に還るといい」

 烏月は静かに立ち上がると、冷たくそう言い放って由椰のそばを離れた。

「風夜、この娘を直ちに屋敷から追い出せ」

 烏月が黒い翼を持つ紫の瞳の男、風夜に命じる。

「かしこまりました」
「あ、ちょ……、烏月様!」

 泰吉と呼ばれていた栗毛の男は、風夜を横目に見て舌打ちすると、速足で部屋から出て行く烏月を追いかける。