人里離れた山の奥。薄暗い洞窟の中で、男がふたり、たたずんでいた。
彼らの足元に横たわるのは、白の花嫁装束を纏ったひとりの少女。
淡い光の加護に守られて眠る少女を見下ろして、男のひとりが愁眉を寄せた。
「この娘に間違いないのだな」
黒髪にアメジストのような紫の瞳。眦のとがった、けれどとても端正な顔立ちをしたその男は、怪訝そうであり、不機嫌そうでもある。
「ああ、間違いない」
紫の瞳をした男に、もうひとりが、しかと頷く。柔らかそうな栗毛に琥珀色の瞳をした彼の見た目も、人の世のものとは思えないほどに美しかった。
「ほんとうか? 烏月様の御前にて、『やはり人違いだった』などという話は通用せぬぞ。バカ狸」
「なんだと、クソ鴉。人違いなもんか。オレが伊世様を間違えるなどありえない」
眠る少女の前で、男たちが互いに睨み合う。
ふだんなら共に行動することなどありえないふたりが、こうして洞窟の中にいるのは、光の加護に守られて眠る少女の導きにほかならない。
年は、十五かそこらだろう。少女の寝顔には、美しさのなかに少しの幼さが残っている。