お互い一言も話さぬまま、五分が経った。その間にも、カクテルや向日葵、土星の様なUFOの様な変な形の花火が打ち上がった。
 一つ打ち上がる度に鳴る轟音は、心の崩れる音と重なる。ボロボロと崩れて行く心はもう修復不可能だ。
 居心地の悪さに、意味も無くスマホを開き、そして閉じる。それを二回繰り返してから口を開いた。

「あ、母さんから用事頼まれた。帰るわ。じゃあ」
「あ、うん」

 取り繕いもしなかった嘘は、やはり下手だった。しかし咲はまるで気が付かなかったかのように、平然と俺を送り出した。
 それで良い。それが良い。寂しさを紛らわす為、そう言い聞かせた。
 ただ走る。走って、走って、逃げた。