「これであかねちゃんちには挨拶できました」
あのあとあかねの両親と祖母とも顔を合わせて、賑やかに挨拶を交わした。
誰もがよそ者の僕を暖かく迎えてくれて、お茶やらお菓子やらをいただいた。田舎の村は閉鎖的というイメージもあったけれど、この村にはそんな言葉は当てはまらないようだ。
そして少し歓談したあと、次の家に向かうという事で別れを告げてきたところだった。
「じゃあこずえちゃんにはさっきあったので、次はかなたちゃんちです。ところで」
あかねと別れたあと、次の家に向かう途中、ありすは振り返る。
麦わら帽子の下で少し眉を寄せているように見える。
「四月一日さんはロリコンですか?」
ありすの唐突な台詞に思わず僕はむせかえっていた。
「げほっげほっ……また唐突に何を言うんだよ!?」
あまりの台詞に何を言われているのかもよくわからなかったが、とんでもない事を訊かれたのだけは確かだ。
「心配してるのかい」
ミーシャが僕の背中から声をかけてくる。いつの間にか後ろをついて歩いていたようだ。
「そういう訳じゃないけど、でもそうだったらどうしようかなぁって」
「それを心配というんじゃないのかい。まぁいくらなんでもさすがに心配が過ぎるように思うけどね」
二人してよくわからない会話を繰り広げていた。ありすが一体何を心配しているというのだろうか。
別にロリコンではないけど、仮に僕がそうだとしても特に関係はないと思うのだけど。
心の中で思うものの、口にはしないでおく。変な疑いをかけられてもしゃくだ。
「で、ロリコンなんですか? そうなんですか? さすがに小さくはなれないなぁ」
「いや。だから違うから。どっから出てきたの、その話は」
「四月一日さんはロリコンなのかと思って」
「ロリコン疑惑からいちど離れてくれませんか?」
ため息をもらしながら思わず敬語で答えてしまう。
すると後ろからくくっと笑みを漏らしながら、ミーシャが言葉を紡ぐ。
「いや、やっぱり有子は面白いよ。見ていて飽きないね。ほんとに」
「飽きないってどういうことなのっ。あと有子じゃなくて、ありす。ありすって呼んでよぅ」
「はいはい。ありすね」
もはやお約束のごとく毎度のやりとりをすると、ミーシャは再びくくっとのどの奥からくぐもったような笑い声を漏らした。
「ま、心配する事はないよ。ボクが見た限りでは、謙人はあかねの胸に興味津々だったようだからね」
「ちょ、ミーシャまで何を」
「そうなんですか? 四月一日さん、あかねちゃんのおっぱいに興味ありまくりだったんですか!? そりゃ確かにあかねちゃんは大きいけど。そうだったんですか!? おっぱい星人だったんですか!?」
「いや、違うからね!? そういう訳じゃないからね!?」
慌てて声を上げるが、あまり説得力はない。確かに見てました。見てしまってました。
しょうがないよね。まだ思春期の男の子なんだから。おっきな胸が気になっちゃうのは。
「ううー。そこはあかねちゃんには勝てません……。でも私だって、まだこれから大きくなるかもしれないし」
「あかねは有子の歳の頃にはもう大きかったけどね」
「わーーー。なんてこというのっ。個人差あるからわからないじゃない。これからまだ大きくなるかもしれないし。それに有子じゃなくて、ありす。ありすって呼んでよぅ」
「はいはい。ありすね」
再びいつものやりとりを繰り広げると、少し恨めしそうな目で僕を睨んでいた。
「もう、四月一日さんはえっちですー」
すねたような口調で口元を膨らませていた。
とりあえず何と答えればいいかはわからなかったので、そのまま黙っておく。別に僕が胸の話を始めた訳じゃないんだけど。
ありすはしばらくの間は僕をにらみつけていたが、やがて落ち着いてきたのか大きく息を吸い込む。
それからありすはうんとうなずいて、いちど少しだけ外した視線を僕へとまた戻す。
「かなたちゃんちはこっちです」
向こう側にある家へと歩き出していた。
そしてやっぱり勝手に扉を開けると、大きな声で家の中へと呼びかける。
「かなたちゃーん」
『あー、ありすちゃん。いまいくねー!』
奥から元気の良い声が戻ってくる。
そしてぱたぱたと廊下を駆ける音が聞こえたかと思うと、奥から一人の少女が飛び出してくる。
年の頃は十歳くらいだろうか。小学生高学年くらいかもしれない。サイドに二つに結んだ髪を大きなリボンでくくっている。いわゆるツインテールという奴だろう。
白いブラウスの下に、チェック柄の吊りスカート。頭の上には白いベレー帽をかぶっていた。見た感じでは、どこかの学校の制服のようにも見える。
「ありすちゃん。待ってたよー。今日はどこいくの? また薬草とり? それとも魔法の修行かな」
わくわくを隠せない様子で目を輝かせながら、目の前で掌を合わせていた。
「ごめんね。かなたちゃん。今日は遊びに誘いにきたんじゃないんだ。ちょっと人を紹介しようと思って」
「え、そうなんだ。って、あれ、知らない人だっ」
ありすの言葉に初めて僕に気がついたようで目を白黒とさせていた。
「こちら四月一日さん。旅の途中なんだって」
「え、えーー! 四月一日さん!? それって、じゃあありすおねえちゃんの占いの……」
「わ、わわわっ。しーっ。しーっ。かなたちゃん、それは秘密。秘密だよぅ」
慌てた様子でぱたぱたと手を振るう。
すぐに少女も両手で口を押さえる。
「ご、ごめんねっ。ついっ。でも、そうなんだ。四月一日さんなんだぁ。わー。どきどきする」
それから興味津々といった感じで僕の方を頭かにつま先まで観察しているようだった。
まぁ見られて減るものでもないけど、あまり見られると照れくさくはある。
しかし占いとは一体何の話なのだろうか。僕は少し首をかしげる。
まぁ魔女だの魔法が使えるだの言い出すありすの話だから、あまり大した話ではないのかもしれないけれど少しだけ気にはなる。
ただ少女は僕にその質問を投げる時間はくれずに、頭を下げながら新しく言葉を紡いでいた。
「あ、冬見彼方ですっ。かなたと呼んでくださいっ」
「僕は四月一日謙人。好きなように呼んでくれてかまわないよ」
かなたの挨拶に僕も同じように返す。
「好きなように。いいんですか。えーっと。じゃあ謙人お兄ちゃん」
「ぶっ。げほっげほっ。いや、なんでお兄ちゃんなの」
突然にお兄ちゃん呼びに少しむせかえって、咳をもらす。
かなたは上目遣いで僕を見つめて、胸の前で両手を合わせていた。
「だってこの村にはありすちゃんとか、あかねちゃんとか、お姉ちゃんはいるけど。お兄ちゃんがいないんだもん。かなた、ずっとお兄ちゃんが欲しくって。だめですか?」
瞳を潤せながら僕へとすがるように懇願してくる。上目使いの瞳がきらきらと僕を射るようにみつめていて、わずかに小首をひねる。
か、可愛い。これは反則だろう。さすがにこれにはだめとは言えなかった。
「まぁ好きに呼べっていったのは僕だから、いいけど……」
「わーい。かなた、お兄ちゃん大好きっ」
言いながら僕に向かって飛び込んでくる。
これは可愛い。可愛すぎる。僕はロリコンではないけれど、この可愛さは反則だと思う。
「四月一日さん、鼻の下のびてますー。もうっもうっ。だからロリコンかどうか訊いたのに、やっぱりロリコンさんですぅ」
「い、いやっ。違うよ。ロリコンじゃないからね。同じくらいの年か、むしろ年上の方が好きだからね!?」
「じゃあやっぱりあかねちゃんがいいんですかっ。巨乳好きなんですか!? おっぱい星人なんですか!? おっぱいにしか興味ないんですかっ!?」
「いや、だから、どうしてそうなるの!? まだみんな知り合ったばかりで、良くも悪くも特別な感情はないから!?」
思わず言いつのると、なぜかかなたが悲しそうな瞳で僕を見つめていた。
「え。お兄ちゃん、かなたのこと好きじゃないの? 嫌いなの? かなた、お兄ちゃん大好きなのに」
「い、いや、そういう訳じゃ」
「じゃあ、かなたのこと好き?」
まっすぐな瞳で見つめてくるかなたに、思わず僕は息を飲み込む。
ここで好きではないと答えられるほど、僕は心が強くない。
「う、うん。どっちかといえば好きかな」
「わーい。お兄ちゃん大好き」
かなたは再び飛びついて抱きついてくる。
この子、あれだ。天然かもしれないけど、小悪魔だ。この年にして男心を振り回す小悪魔に違いない。
どきまぎしながらも、僕はかなたの腕の中から離れる。
そしてありすが細い目をして僕を睨んでいた。
ロリコン疑惑が深まっているのだろうか。
「……とりあえず、これでかなたちゃんちにもロリコンさんを紹介できましたー。かなたちゃんのご両親はまだ帰ってきていないと思うから、まずは他のおうちにいきましょう」
呼び方がロリコンさんになってる!? 違うからね!?
心の中で思うものの、ありすの疑惑は解けそうにもなかった。
背中でミーシャが笑っているのがわかった。
あのあとあかねの両親と祖母とも顔を合わせて、賑やかに挨拶を交わした。
誰もがよそ者の僕を暖かく迎えてくれて、お茶やらお菓子やらをいただいた。田舎の村は閉鎖的というイメージもあったけれど、この村にはそんな言葉は当てはまらないようだ。
そして少し歓談したあと、次の家に向かうという事で別れを告げてきたところだった。
「じゃあこずえちゃんにはさっきあったので、次はかなたちゃんちです。ところで」
あかねと別れたあと、次の家に向かう途中、ありすは振り返る。
麦わら帽子の下で少し眉を寄せているように見える。
「四月一日さんはロリコンですか?」
ありすの唐突な台詞に思わず僕はむせかえっていた。
「げほっげほっ……また唐突に何を言うんだよ!?」
あまりの台詞に何を言われているのかもよくわからなかったが、とんでもない事を訊かれたのだけは確かだ。
「心配してるのかい」
ミーシャが僕の背中から声をかけてくる。いつの間にか後ろをついて歩いていたようだ。
「そういう訳じゃないけど、でもそうだったらどうしようかなぁって」
「それを心配というんじゃないのかい。まぁいくらなんでもさすがに心配が過ぎるように思うけどね」
二人してよくわからない会話を繰り広げていた。ありすが一体何を心配しているというのだろうか。
別にロリコンではないけど、仮に僕がそうだとしても特に関係はないと思うのだけど。
心の中で思うものの、口にはしないでおく。変な疑いをかけられてもしゃくだ。
「で、ロリコンなんですか? そうなんですか? さすがに小さくはなれないなぁ」
「いや。だから違うから。どっから出てきたの、その話は」
「四月一日さんはロリコンなのかと思って」
「ロリコン疑惑からいちど離れてくれませんか?」
ため息をもらしながら思わず敬語で答えてしまう。
すると後ろからくくっと笑みを漏らしながら、ミーシャが言葉を紡ぐ。
「いや、やっぱり有子は面白いよ。見ていて飽きないね。ほんとに」
「飽きないってどういうことなのっ。あと有子じゃなくて、ありす。ありすって呼んでよぅ」
「はいはい。ありすね」
もはやお約束のごとく毎度のやりとりをすると、ミーシャは再びくくっとのどの奥からくぐもったような笑い声を漏らした。
「ま、心配する事はないよ。ボクが見た限りでは、謙人はあかねの胸に興味津々だったようだからね」
「ちょ、ミーシャまで何を」
「そうなんですか? 四月一日さん、あかねちゃんのおっぱいに興味ありまくりだったんですか!? そりゃ確かにあかねちゃんは大きいけど。そうだったんですか!? おっぱい星人だったんですか!?」
「いや、違うからね!? そういう訳じゃないからね!?」
慌てて声を上げるが、あまり説得力はない。確かに見てました。見てしまってました。
しょうがないよね。まだ思春期の男の子なんだから。おっきな胸が気になっちゃうのは。
「ううー。そこはあかねちゃんには勝てません……。でも私だって、まだこれから大きくなるかもしれないし」
「あかねは有子の歳の頃にはもう大きかったけどね」
「わーーー。なんてこというのっ。個人差あるからわからないじゃない。これからまだ大きくなるかもしれないし。それに有子じゃなくて、ありす。ありすって呼んでよぅ」
「はいはい。ありすね」
再びいつものやりとりを繰り広げると、少し恨めしそうな目で僕を睨んでいた。
「もう、四月一日さんはえっちですー」
すねたような口調で口元を膨らませていた。
とりあえず何と答えればいいかはわからなかったので、そのまま黙っておく。別に僕が胸の話を始めた訳じゃないんだけど。
ありすはしばらくの間は僕をにらみつけていたが、やがて落ち着いてきたのか大きく息を吸い込む。
それからありすはうんとうなずいて、いちど少しだけ外した視線を僕へとまた戻す。
「かなたちゃんちはこっちです」
向こう側にある家へと歩き出していた。
そしてやっぱり勝手に扉を開けると、大きな声で家の中へと呼びかける。
「かなたちゃーん」
『あー、ありすちゃん。いまいくねー!』
奥から元気の良い声が戻ってくる。
そしてぱたぱたと廊下を駆ける音が聞こえたかと思うと、奥から一人の少女が飛び出してくる。
年の頃は十歳くらいだろうか。小学生高学年くらいかもしれない。サイドに二つに結んだ髪を大きなリボンでくくっている。いわゆるツインテールという奴だろう。
白いブラウスの下に、チェック柄の吊りスカート。頭の上には白いベレー帽をかぶっていた。見た感じでは、どこかの学校の制服のようにも見える。
「ありすちゃん。待ってたよー。今日はどこいくの? また薬草とり? それとも魔法の修行かな」
わくわくを隠せない様子で目を輝かせながら、目の前で掌を合わせていた。
「ごめんね。かなたちゃん。今日は遊びに誘いにきたんじゃないんだ。ちょっと人を紹介しようと思って」
「え、そうなんだ。って、あれ、知らない人だっ」
ありすの言葉に初めて僕に気がついたようで目を白黒とさせていた。
「こちら四月一日さん。旅の途中なんだって」
「え、えーー! 四月一日さん!? それって、じゃあありすおねえちゃんの占いの……」
「わ、わわわっ。しーっ。しーっ。かなたちゃん、それは秘密。秘密だよぅ」
慌てた様子でぱたぱたと手を振るう。
すぐに少女も両手で口を押さえる。
「ご、ごめんねっ。ついっ。でも、そうなんだ。四月一日さんなんだぁ。わー。どきどきする」
それから興味津々といった感じで僕の方を頭かにつま先まで観察しているようだった。
まぁ見られて減るものでもないけど、あまり見られると照れくさくはある。
しかし占いとは一体何の話なのだろうか。僕は少し首をかしげる。
まぁ魔女だの魔法が使えるだの言い出すありすの話だから、あまり大した話ではないのかもしれないけれど少しだけ気にはなる。
ただ少女は僕にその質問を投げる時間はくれずに、頭を下げながら新しく言葉を紡いでいた。
「あ、冬見彼方ですっ。かなたと呼んでくださいっ」
「僕は四月一日謙人。好きなように呼んでくれてかまわないよ」
かなたの挨拶に僕も同じように返す。
「好きなように。いいんですか。えーっと。じゃあ謙人お兄ちゃん」
「ぶっ。げほっげほっ。いや、なんでお兄ちゃんなの」
突然にお兄ちゃん呼びに少しむせかえって、咳をもらす。
かなたは上目遣いで僕を見つめて、胸の前で両手を合わせていた。
「だってこの村にはありすちゃんとか、あかねちゃんとか、お姉ちゃんはいるけど。お兄ちゃんがいないんだもん。かなた、ずっとお兄ちゃんが欲しくって。だめですか?」
瞳を潤せながら僕へとすがるように懇願してくる。上目使いの瞳がきらきらと僕を射るようにみつめていて、わずかに小首をひねる。
か、可愛い。これは反則だろう。さすがにこれにはだめとは言えなかった。
「まぁ好きに呼べっていったのは僕だから、いいけど……」
「わーい。かなた、お兄ちゃん大好きっ」
言いながら僕に向かって飛び込んでくる。
これは可愛い。可愛すぎる。僕はロリコンではないけれど、この可愛さは反則だと思う。
「四月一日さん、鼻の下のびてますー。もうっもうっ。だからロリコンかどうか訊いたのに、やっぱりロリコンさんですぅ」
「い、いやっ。違うよ。ロリコンじゃないからね。同じくらいの年か、むしろ年上の方が好きだからね!?」
「じゃあやっぱりあかねちゃんがいいんですかっ。巨乳好きなんですか!? おっぱい星人なんですか!? おっぱいにしか興味ないんですかっ!?」
「いや、だから、どうしてそうなるの!? まだみんな知り合ったばかりで、良くも悪くも特別な感情はないから!?」
思わず言いつのると、なぜかかなたが悲しそうな瞳で僕を見つめていた。
「え。お兄ちゃん、かなたのこと好きじゃないの? 嫌いなの? かなた、お兄ちゃん大好きなのに」
「い、いや、そういう訳じゃ」
「じゃあ、かなたのこと好き?」
まっすぐな瞳で見つめてくるかなたに、思わず僕は息を飲み込む。
ここで好きではないと答えられるほど、僕は心が強くない。
「う、うん。どっちかといえば好きかな」
「わーい。お兄ちゃん大好き」
かなたは再び飛びついて抱きついてくる。
この子、あれだ。天然かもしれないけど、小悪魔だ。この年にして男心を振り回す小悪魔に違いない。
どきまぎしながらも、僕はかなたの腕の中から離れる。
そしてありすが細い目をして僕を睨んでいた。
ロリコン疑惑が深まっているのだろうか。
「……とりあえず、これでかなたちゃんちにもロリコンさんを紹介できましたー。かなたちゃんのご両親はまだ帰ってきていないと思うから、まずは他のおうちにいきましょう」
呼び方がロリコンさんになってる!? 違うからね!?
心の中で思うものの、ありすの疑惑は解けそうにもなかった。
背中でミーシャが笑っているのがわかった。