正直興味がないといえば嘘になるけれど、雰囲気に流されてしまうのはあまり良くない事だと思う。
ありすの事は嫌いじゃないけれど、もしもそうなるのなら互いに好きあってからの方がいい。
たださすがに鈍い僕にもわかる。ありすは少なからず僕に好意を持ってくれているのだろう。
その気持ちが恋や愛とつながるかどうかはわからないけれど、少なくとも僕の事を好きでいてくれているのはわかっていた。
もちろん僕の勘違いでなければだけども。もしかしたらただの自意識過剰なのかもしれない。
村のみんながありすとの関係をはやし立ててくるから、僕もありすの事を意識し始めているのかもしれない。
可愛いのは確かだし、それに何より彼女と一緒にいると何となく気持ちが落ち着いていられた。一緒にいるのが心地よく思えるのは、もしかしたら好きだと言う事なのかもしれない。
そこまで思ってから大きく首を振るう。
僕は旅の途中だし、ありすを好きになる訳にはいかない。別れる前提での恋はさすがに悲しすぎるだろう。
ありすの想いがどういう気持ちかはわからない。この村には年頃の男の子はいないようだから、珍しい異性に出会ったことでの気の迷いかもしれない。むしろ昨日出会ったばかりの男の子に好意をいだくとしたら、それくらいしかない。
そんな一時的な感情に身を任せてしまったら、きっと後悔するだろう。
改めて僕は決意を固める。ありすには後悔なんてしてもらいたくない。そう僕は思う。
「こんこんこんこん」
ありすはまだキツネの真似をしているようだった。
そんなありすも可愛らしいとは思う。少しまだ幼さを残した彼女は、ちょっと不思議な女の子だけれども、一緒にいて嫌な気持ちになる部分が一つもなかった。それだけは間違いない。
「でもどうせなるならやっぱりきつねやたぬきよりも、猫がいいなぁと思います。ここは猫鳴村ですし」
「うーん。ありすは猫というよりも、犬っぽい感じがするけどね」
「わー。私、どっちかというと犬より猫派なんですけど。でも犬もいいかもしれませんね。わんわん。じゃあ私は謙人さんの飼い犬です。芸もしますよ」
ありすは今度は犬になったつもりなのか、四つん這いになって、それからぺたんとおしりを床につける。
「ご主人様。何か命令してくださいわん」
唐突に何か変なゲームが始まっていた。
さすがに二人きりなのに無視する訳にもいかないし、さきほどの空気が継続するよりはマシだ。とりあえず少しはありすの遊びにつきあってみる事にする。
「えーっと。じゃあお手」
「はいっ」
言って差し出した手に、ありすはすかさず握った手を重ねてくる。
「ほら、芸しましたよっ。ちゃんとほめてくださいっ。わんちゃんが芸をしたら褒める。これは基本ですよ」
そしてすぐに抗議の声をあげてくる。すっかり犬の気持ちになりきっているようだ。
「え、えーっと。じゃあ、いい子いい子」
言われてとりあえずありすの頭をなでる。
ありすはそれで満足したのか、嬉しそうな笑顔を向けていた。
「どんどんいってください」
「それじゃあ、おかわり」
調子にのって反対側の手を差し出してみる。
そうするとお利口なわんこが反対側の手を載せてきていた。ありすの始めた冗談だったのだろうが、なんとなく本当に犬と遊んでいるような気分になってくる。
「おおー。お利口さんだね。じゃあこんどはとってこーい」
そのへんにあったタオルを丸めてぽんと遠くまで投げてみる。
ありすは素直に四つん這いでタオルを取りに行くと、そのままタオルを手にしてこちらへと戻ってくる。
そしてその勢いをつけたまま、僕へと飛び込んできていた。
「おわっ!?」
思わず変な声を漏らして、そしてそのまま背中側に倒れる。
「いつつ……」
少しだけ痛みを感じるが、さほどの衝撃ではない。
だけど僕はそこから少しも動く事ができなかった。
ありすが僕の上にまたがるようにして重なっていたから。
その体勢からありすは少しも動こうとしない。
「謙人さん……」
僕の名前を呼んで、それから上に重なったままじっと僕を見つめてくる。
いけない。この体勢はまずい。
そう思って、僕はなんとか抜けだそうと思うだけど、ありすの両手両足が僕が動くのを妨げている。無理矢理引きはがせば抜け出す事は出来たかもしれないけれど、そこまでする事は僕には出来なかった。
文字通り目と鼻の先でありすの顔が僕と視線を向かわせていた。
吐息がかかるくらいの距離にいたら、嫌でもどきどきしてしまうって言っていたの誰だったっけ。
頭が回らない。何も考えられなかった。
もしこのままありすが動いてしまったら、僕はそのまま受け入れてしまったかもしれない。あまりにも胸の鼓動が激しくて、ありすにまで聞こえているんじゃないかと思った。
ありすの呼吸が少しだけ僕の頬をなでる。
身動き一つできずに、僕はありすと二人でここに対峙していた。
「出会ったばかりじゃなければいいんですよね」
「え、えーっと。そうかな。そうかもしれないけど。でもまぁありすとはまだ出会ったばかりだし、ちょっとばかり早いと思うんだよなぁ」
よくわからない言い訳を告げるが、ありすはあまり聴いてはいないようだった。
僕の方へとさらに少しだけ顔を寄せてくる。
「出会ったばかりじゃないですよ」
ありすは静かな声で告げる。
出会ったばかりじゃない。ありすが告げた言葉の意味はわからなかった。
「いや、でも昨日出会ったばかりで」
「いいえ、違いますよ。私と謙人さんが出会ったのは、もうずっと前のことです。あのひまわり畑で私と謙人さんは出会いました」
ありすはゆっくりと何かかみしめるように言葉を紡ぐ。
あのひまわり畑。確かにどこかで見た事があるように感じていた。
「最初は私もあれって思っていました。どこかでみたことがあるような。でも知らない人のはずだって、そう思っていました。でも昨日の夜、謙人さんとお話してみて確信しました。ああ、やっぱりあの時の男の子が戻ってきてくれたんだ。私との約束を守りにやってきてくれたんだって。だから」
ありすの言葉に、僕は息を飲み込む。
突然に記憶の扉が開いた。
ありすの事は嫌いじゃないけれど、もしもそうなるのなら互いに好きあってからの方がいい。
たださすがに鈍い僕にもわかる。ありすは少なからず僕に好意を持ってくれているのだろう。
その気持ちが恋や愛とつながるかどうかはわからないけれど、少なくとも僕の事を好きでいてくれているのはわかっていた。
もちろん僕の勘違いでなければだけども。もしかしたらただの自意識過剰なのかもしれない。
村のみんながありすとの関係をはやし立ててくるから、僕もありすの事を意識し始めているのかもしれない。
可愛いのは確かだし、それに何より彼女と一緒にいると何となく気持ちが落ち着いていられた。一緒にいるのが心地よく思えるのは、もしかしたら好きだと言う事なのかもしれない。
そこまで思ってから大きく首を振るう。
僕は旅の途中だし、ありすを好きになる訳にはいかない。別れる前提での恋はさすがに悲しすぎるだろう。
ありすの想いがどういう気持ちかはわからない。この村には年頃の男の子はいないようだから、珍しい異性に出会ったことでの気の迷いかもしれない。むしろ昨日出会ったばかりの男の子に好意をいだくとしたら、それくらいしかない。
そんな一時的な感情に身を任せてしまったら、きっと後悔するだろう。
改めて僕は決意を固める。ありすには後悔なんてしてもらいたくない。そう僕は思う。
「こんこんこんこん」
ありすはまだキツネの真似をしているようだった。
そんなありすも可愛らしいとは思う。少しまだ幼さを残した彼女は、ちょっと不思議な女の子だけれども、一緒にいて嫌な気持ちになる部分が一つもなかった。それだけは間違いない。
「でもどうせなるならやっぱりきつねやたぬきよりも、猫がいいなぁと思います。ここは猫鳴村ですし」
「うーん。ありすは猫というよりも、犬っぽい感じがするけどね」
「わー。私、どっちかというと犬より猫派なんですけど。でも犬もいいかもしれませんね。わんわん。じゃあ私は謙人さんの飼い犬です。芸もしますよ」
ありすは今度は犬になったつもりなのか、四つん這いになって、それからぺたんとおしりを床につける。
「ご主人様。何か命令してくださいわん」
唐突に何か変なゲームが始まっていた。
さすがに二人きりなのに無視する訳にもいかないし、さきほどの空気が継続するよりはマシだ。とりあえず少しはありすの遊びにつきあってみる事にする。
「えーっと。じゃあお手」
「はいっ」
言って差し出した手に、ありすはすかさず握った手を重ねてくる。
「ほら、芸しましたよっ。ちゃんとほめてくださいっ。わんちゃんが芸をしたら褒める。これは基本ですよ」
そしてすぐに抗議の声をあげてくる。すっかり犬の気持ちになりきっているようだ。
「え、えーっと。じゃあ、いい子いい子」
言われてとりあえずありすの頭をなでる。
ありすはそれで満足したのか、嬉しそうな笑顔を向けていた。
「どんどんいってください」
「それじゃあ、おかわり」
調子にのって反対側の手を差し出してみる。
そうするとお利口なわんこが反対側の手を載せてきていた。ありすの始めた冗談だったのだろうが、なんとなく本当に犬と遊んでいるような気分になってくる。
「おおー。お利口さんだね。じゃあこんどはとってこーい」
そのへんにあったタオルを丸めてぽんと遠くまで投げてみる。
ありすは素直に四つん這いでタオルを取りに行くと、そのままタオルを手にしてこちらへと戻ってくる。
そしてその勢いをつけたまま、僕へと飛び込んできていた。
「おわっ!?」
思わず変な声を漏らして、そしてそのまま背中側に倒れる。
「いつつ……」
少しだけ痛みを感じるが、さほどの衝撃ではない。
だけど僕はそこから少しも動く事ができなかった。
ありすが僕の上にまたがるようにして重なっていたから。
その体勢からありすは少しも動こうとしない。
「謙人さん……」
僕の名前を呼んで、それから上に重なったままじっと僕を見つめてくる。
いけない。この体勢はまずい。
そう思って、僕はなんとか抜けだそうと思うだけど、ありすの両手両足が僕が動くのを妨げている。無理矢理引きはがせば抜け出す事は出来たかもしれないけれど、そこまでする事は僕には出来なかった。
文字通り目と鼻の先でありすの顔が僕と視線を向かわせていた。
吐息がかかるくらいの距離にいたら、嫌でもどきどきしてしまうって言っていたの誰だったっけ。
頭が回らない。何も考えられなかった。
もしこのままありすが動いてしまったら、僕はそのまま受け入れてしまったかもしれない。あまりにも胸の鼓動が激しくて、ありすにまで聞こえているんじゃないかと思った。
ありすの呼吸が少しだけ僕の頬をなでる。
身動き一つできずに、僕はありすと二人でここに対峙していた。
「出会ったばかりじゃなければいいんですよね」
「え、えーっと。そうかな。そうかもしれないけど。でもまぁありすとはまだ出会ったばかりだし、ちょっとばかり早いと思うんだよなぁ」
よくわからない言い訳を告げるが、ありすはあまり聴いてはいないようだった。
僕の方へとさらに少しだけ顔を寄せてくる。
「出会ったばかりじゃないですよ」
ありすは静かな声で告げる。
出会ったばかりじゃない。ありすが告げた言葉の意味はわからなかった。
「いや、でも昨日出会ったばかりで」
「いいえ、違いますよ。私と謙人さんが出会ったのは、もうずっと前のことです。あのひまわり畑で私と謙人さんは出会いました」
ありすはゆっくりと何かかみしめるように言葉を紡ぐ。
あのひまわり畑。確かにどこかで見た事があるように感じていた。
「最初は私もあれって思っていました。どこかでみたことがあるような。でも知らない人のはずだって、そう思っていました。でも昨日の夜、謙人さんとお話してみて確信しました。ああ、やっぱりあの時の男の子が戻ってきてくれたんだ。私との約束を守りにやってきてくれたんだって。だから」
ありすの言葉に、僕は息を飲み込む。
突然に記憶の扉が開いた。