そんなにらみ合いのような状況が続いていた時。

「……ニィ」

瞬きをしている間に怪異の姿が消える。
全身を貫くような殺意を感じて僕は前に踏み出す。
同時に懐から十手を取り出して前に――。

「ぐぅ!」

衝撃と痛みに顔を歪めながら倒れないように堪える。
一撃で利き腕が痺れてしまった。

「雲川!」
「少し痺れているけれど、大丈夫!」

自分の状態を新城へ伝えながら十手を構える。

「お前、強いなぁ」

少し離れた所に着地する怪異。
先程と姿が変わっていた
二メートルに近い高身長に黒い唐傘は変わらず、漆黒の着物、腰に下げた刀。
脚がなく、血走ったように赤い瞳がこちらへ向けられている。

「雲川、撤退の準備を」
「え、でも」
「はっきりいって俺の想定していた状況の数倍、ヤバイ」

確かに目の前の怪異は今までに僕達が遭遇した中で上位に匹敵するほどのヤバさがある。
何の準備もなしに挑んだら命を落とすかもしれない。

「話し合いは済んだか?さぁ、殺し合おうぞ!楽しもうぞ!血沸き肉躍る戦いを!」

口からボタボタと涎を零しながら刀を抜く怪異。
唐傘の下からランランと真っ赤に輝く赤い瞳。

「これ、逃がしてくれるかな?」
「死ぬ気で頑張るしかないだろうな」

若干、ふざけてみる。
新城もふざけてくれたけれど、どうしよう。この。

「式神、展開!」

第三者の声が暗闇に響く。
同時に黒い唐傘の怪異の周囲に四体の獣が現れる。
あれは、獅子かな?
怪異を包囲した獣が雄叫びをあげる。
吼えた途端、怪異がその場に縫い付けられたように動かなくなった。

「式神の声による相手の束縛」
「え?」