「夜の見回りって、補導されないか心配だね」
「そうならないように長谷川の奴に頼んで必要書類をもたされているんだ」

悪態をつきながら夜道を歩く新城(しんじょう)
僕達は私服姿で夜の街を歩いていた。
夜の街といっても普通の人が想像するような場所を歩いる訳ではなく、路地裏や人の行き交いが少ない狭い場所。
それも草木眠る丑三つ時。
当然の事なら人の姿はなく、どこか不気味な空気が漂っている。
こんなところを歩いているところに巡回中のお巡りさんと遭遇……なんてことになったら補導間違いなし。

長谷川(はせがわ)の奴も面倒な依頼してきやがって」

ぶつぶつと悪態をつきながらも周囲を警戒している新城。

「まぁ、文化祭で色々とお世話になったからね」

文化祭の期間中、僕と新城は人身売買の連中から人間と妖怪の子どもを保護する。
取り返そうとする非道な組織に激怒した新城によってある土地が更地になってしまった。
その時のもみ消しに長谷川さんは奔走してくれた。

「元々は連中の不手際が招いた結果だろ」
「でも、更地にする必要はなかった訳だし」
「うぐ」

僕の指摘に顔を顰める新城。
迷惑をかけたお礼として長谷川さんから一つの依頼を受けている。
警察からの正式な依頼という事で補導の心配はない。
正確に言うと怪異を専門としている警察部署から祓い屋である新城へ直々の依頼。だからお巡りさんに遭遇しても大丈夫なように警察サイドから特別許可証が新城へ渡されている。

「今回の怪異って、そんなにヤバイの?この前の都市伝説怪異のような」
「わからない」
「え?」
「わからないから警戒しないといけないんだよ、いいか?わからないって事はどこまで何を用意すればいいのかわからないって……耳にタコができるほど、話したな」

怪異(かいい)というのは人の理解を超えた存在。
安全のボーダーラインというのは常に不安定で、慢心や油断が死に直結する可能性だってある。
本来なら怪異と関わらないという方が幸せという新城の言葉の意味も今ならわかる。

「そうだけど、初心を忘れない事は大事だから助かるよ」