妖界


「姉様」
「あら、蒼。私のところへ来たという事は」

妖界。
屋敷の縁側で景色を見ていた赤髪の少女が振り返る。

「あぁ、アイツの気配を感じ取れるようになったぞ」
「どうやら野に放たれた転生者を倒したということでしょう。流石はトウマ様ということですわね」

ニコリと笑う赤髪の少女に対して、傍までやってきた青と銀が混ざった少女は顔を顰める。

「何を悠長な。あの転生者は平安の世を騒がせた相手だ。そんな奴を倒したとなると、その力は」
「あら、何を恐れることがあるの?」

くすくすと少女は嗤う。

「確かに転生者を倒すほどの力を手に入れたのでしょう。だとしても、私と貴方の前だと彼は何もできないわ。だって、わかるでしょう?」

指摘された事で冷静さを取り戻したのか顔を顰めていた少女は無表情へ戻った。

「そうですね。失礼しました」
「仕方ないわ。もうすぐ、もうすぐ彼と会えると思ったら気持ちが高ぶっても仕方ない事」

着物の裾から一枚の写真を取り出す。

「もうすぐね。もうすぐ、彼は私達のところへ戻ってくるのよ」

妖艶に微笑む赤髪の少女と同じようにもう一人も微笑む。
二人が覗き込む一枚の写真。
写真の中で二人の少女、その奥で微笑んでいる一人の女性。
二人の少女の間に挟まれた一人の男の子がいる。

「見つけたら絶対に離さない」
「次はない、体の隅々まで教え込んでやる。貴様が誰の、ものか」

笑いあう二人。
だが、その笑みは見た者が震えあがる程の狂気を孕んでいる。


妖狐の結婚式に続く