少し間を置いてペチンと丸めた紙を百済の頭の上へ置く。

「変わりたいと思うなら最後まできちんと読め」
「ぇ？」
「じゃあな。変な怪異が現れない限りは会う事もないだろう」

そういって新城は百済を残して去っていく。
少しして百済はぐしゃぐしゃになった用紙を広げて中身を見る。




◆




「見送りは終わったの？」

新城と百済さんのやり取りを少し離れたベンチで座っていた僕は尋ねる。
購入した炭酸飲料を手に持った新城が僕の隣に腰掛けた。

「まぁな、そんな長い話をすることもそもそもないし」
「そういうものかな？」
「そんなものだよ。祓い屋で独特なコミュニティーを築いているならともかく、今回で会わなくなるケースもある。祓い屋の仕事は危険と隣り合わせだ。今回の件だって正直言ってどこかズレていたら俺達は死んでいた」

呟いた新城の言葉に僕は否定できない。
黒笠、二階堂仁衛と名乗っていたあの転生者は強かった。
鬼の千佐那を追い詰めていたあの剣技、目を見張る点がとても多かったと思う。
あの技術も転生した事で得たというのだろうか？それとも、あの人が血反吐を吐く努力をした末のものなのだろうか。

「ねぇ、新城」
「二階堂仁衛が言っていた事か？」
「うん、その、あの人が戦いたいといっていた人は誰なんだろう？それに、新城の事を」

最後に呼んでいたあのシンジョウトウマとはどういうことなのだろう？
あの言い方だとすれば、新城の事の筈なのに、何か違う様に感じた。
でも、それを聞いていいのかわからない。
もしかしたら新城にとって触れてほしくない事なのかもしれないし。
嫌われたらどうしようかと不安になってくる。

「奴の言った心浄統魔(しんじょうとうま)は平安時代に存在した陰陽師の一人。だが、その詳細を知っている者は誰もいないと言われている。陰陽塾から神様みたいな扱いを受けている大陰陽師」
「そんなすごい人と、新城はどんな関係があるの？」

質問に彼は首を振る。

「知らん」