ベテランであるリーダー格すらごりごりと精神が削られてしまうほどにこの部屋はおぞましい。
奥に行く事を本能的に躊躇ってしまいそうになる。
祓い屋にとってそういう本能は自らの命を左右するもの。
本当ならすぐにこの場から逃げ出したいが陰陽塾からの指示と契約がある以上、リーダーは逃げることができない。

「あぁ、くそっ、行くぞ」

数名をこの場に残し、リーダーとその仲間達は奥へ。
宗教団体の本部は入口から数カ所の区画が存在し奥に信者達が集まる講堂がある。

「奥だ」

振り子で怪異の反応を調べている祓い屋の言葉にリーダーは頷き、講堂の扉を開けた。
錆びついた音を立てて開かれる扉。

「なっ」

肉部屋。
その惨状を現す言葉として最適なものをリーダーは一つしか浮かばなかった。
天井、壁、窓といったすべてに貼りつけられている肉、肉、肉。
そのすべて元がなんの肉かわからないほどにちりばめられている。
床は赤色で染め上げられている。
臭いからして人の血だろう。
あまりの光景に目を奪われていた彼ら。
怪異は人の精神を壊すほどに危険な存在もある。その事を実際に目でみて理解している筈の彼らすら目の前の光景は思考停止に陥る程の狂気を放っていた。

「グフフフ」

それ故に講堂の中心。
人肉で構成された椅子に腰かけた存在に気付く事が遅れた。
彼らがその存在を認知した時。
それは彼らが一撃で命を奪われたと理解した瞬間だった。

「う~ん、良い感触、最高だよぉ」



陰陽塾、祓い屋、そのすべてが全滅したという報告は陰陽塾内にとどめられ、その場は厳重な結界が施される事となる。
世間は、ましてや他の祓い屋達もその事実を知らない。


これが、事件のはじまりであることを知らないまま、事態は悪化していく。