青鬼、千佐那。
彼女は妖界に住まう青鬼一族頭領の娘。
青鬼は本来、諜報や妖術が得意。
その中で異質と言われるのが千佐那。
彼女は幼いころから他の鬼達と比べて力が強く、気付いたら赤鬼や名高い妖怪達を倒していた。
その力は青鬼の力を凌駕していた。
いつしか、妖界において、最強の一角と言われるほどの力を持っている。
そんな力を持つ彼女とまともに斬り合える相手。

「カッカッカ!それほどの力を持つとは青鬼にしては珍しいよな」

彼女の振るう小太刀を躱していく黒笠。

「貴様は見た感じ、弱そうだった」

実際、千佐那は一度だけ人間を相手にしたことがあった。
その人間は腕に自信を持つ退魔師と妄語していた。しかし、千佐那の一太刀を受けてあっさりと敗北、みじめな姿を晒して逃げ出している。
人間は弱いと、その時、千佐那は感じて相手をしてこなかった。
そう、雲川丈二という愛したい人と出会うまで。
それに比べて目の前の相手はどうだろう。
対峙した時は自分より弱いと感じた。
だが、今は?

「!」

体を限界まで逸らす。
少し遅れて彼女の喉元を切り裂こうと凶刃が通過した。
慢心や油断が命取りになってしまう。
血沸き肉躍る……まではいかないものの、油断できない相手。
それが黒笠に対して千佐那が抱いた印象。
一瞬の思考を突くように眼前に迫る刃。
大きく後ろへのけ反って躱す。
刃が鼻先を掠める。
流れる鮮血。

「カッカッカ!流石は妖、中々に強いよな!だが、敵ではない!」

距離をとる千佐那。
持っている小太刀へ視線を向ける。
たった数回、相手の刃と重ね合わせただけだというのに刃こぼれしていた。

「所詮、安物の鉄か」

小太刀を鞘に納めて投げ捨てる。

「……フン」

近くの標識へ目を向けた。
ムンズと掴んで一気に引き抜く。

「お、おぉ!」

驚く黒笠の前で標識を上下に振り回す。

「強度に問題あるが、まだ使いやすいか」
「狂っておるな。使いやすさを選ぶか」

冷や汗を流しながら黒笠は刀を構えた。

「使いやすい以外に理由があるか?」

こてんと首を傾げる。
瞬間、千佐那の姿が掻き消える。

「ハッ!?」

眼前に標識のマークがみえた。