「生姜焼きというのはとても美味なものだな。はじめて食べた」

アパートのリビングにて、僕と彼女は向かい合っている。
夕食である生姜焼きをみた彼女は目をキラキラさせながら食べていた姿は年頃の女の子にみえた。

「普段、何を食べているのさ?」
「獣の肉だな。生で食べることが多いんだが……成程、焼くのも次から実行してみよう」
「味付けも必要だと思うよ」
「味付けか……この味を知れば必要だな」

彼女はそういうと立ち上がってこちらへ近づいてくる。

「味付けとやらを教えてくれるか?お前様」
「え、今?」

コクンと彼女は頷くと台所へ向かう。

「さぁ、はじめよう。お前様」
「さっきご飯食べたばかりなのに、また食べるの?」
「まだ腹に余裕はある……しかし」
「どうしたの?」

彼女は視線を右、左へ動かした後、困ったという表情を浮かべる。

「ユウリから男の前で食べ過ぎる姿はみせない方がいいと指摘をもらった。好かれにくくなるとか」

瀬戸さん、色々な事を彼女にアドバイスと称して吹き込んでいるらしい。
これは良い事なんだろうかと悩むところだ。

「えっと、それなら次回はどう?」
「なぬ?」

彼女は振り返ると距離を詰める。

「それはでぇとの約束か?」
「どう、だろうね」

僕はなんともいえない表情を浮かべる。
約束はデートになるのか正直、わからない。
いつからだろう、恋愛関係について感情が疎くなってしまったのは。
少し前、彼女と一緒にいた時はいつもドキドキしていたと思う。
千佐那にあの時と同じ感情を抱いていると思うんだけど、正直、わからない。