「気安く私に触れるな」
冷たい瞳が男に向けられる。
凍てつかせるような目を向けられて怒りに顔を歪めていた男はブルブルと震えだす。

「そこまでだよ」

千佐那の手を掴む。

「む、お前様」
「ナンパしてきた相手にこれ以上は過剰暴力になるからそこまで」
「お前様がいうのなら従おう」
「貴方もナンパなんてやめた方がいいですよ」

相手が危険かそうでないか判断できないなら尚の事、と心の中で思いながら彼女の手を引いていく。
少しばかり移動した所で立ち止まる。

「お前様……」
「暴力は良くないよ」

立ち止まって、僕は彼女と向かい合う。
僕に怒られると思っていたのか彼女は無表情に見えるけれど、瞳が不安そうに揺れていた。
買い物袋を片手でまとめて持つ。
自由になった方の手で彼女の頭へ手を伸ばす。
ビクゥと怯えるように縮こまる。
そんな彼女の頭を優しく撫でた。

「お前様……怒っていないのか？」

撫でられた事に驚いたのか彼女は目を見開いていた。

「やり過ぎた事は怒るべきかもしれないけど、ナンパ男も引き際をわきまえていなかったから半々かな？」

正直言って、他人なら放置していた。
だが、千佐那がこれ以上やりすぎて厄介ごとに巻き込まれる事は新城や皆に迷惑をかけてしまう。
何よりも。

「ごめんなさい」
「悪いと思うのなら次からあぁいう手段以外の方法を考えた方がいいよ」
「わかった」

頷いた彼女は僕の少し後ろをついてくる。
言い過ぎたかな？
しかし、新城から距離をとるようにといわれているし、これくらい。

「…………」

これくらい。