「キミの好物とかある?」

夕方のスーパー。
買い物かごにいくつかの食材を入れながら興味深そうにまわりをみている彼女へ声をかける。

「好物か、私は生肉が好きだ」
「……肉、ね」

生が付いていた事は気にしないようにしよう。
術で人間の姿をしていても本来は鬼。
怪異である彼女は根本的に人と違うのだろうか?

「お前様は何が好物なんだ?」
「僕は……温かいみそ汁かな」

何気なく問われた言葉に僕は一瞬、本当に一瞬だけ家族の事が頭を過ぎった。
もう戻らない家族。
今も入院生活を続けているだろう。
呪術によって性格や何もかもが歪んで元踊りにならない。

「お前様、どうした?」
「あぁ、ごめん。何でもないよ」

首を振りながらふと割引している豚肉に目が行く。

「今日は豚の生姜焼きでもしようか」
「豚の何焼きかわからないが、お前様の作る料理……不思議だ。わくわくするぞ」

嬉しそうに表情を緩める彼女の姿に少し、本当に少し頑張ろうという気持ちが湧き上がった。
豚肉とその他の食材を買い終えてスーパーを出た時。

「ねぇ、キミ、可愛いね」

すぐ傍から聞こえた声に視線を向ける。

「…………」
「ここら辺の子?あまりみたことないけれど、どこの学校の人?」

どうやらナンパされている。
ナンパされている相手は千佐那だった。
うん、彼女か。

「あれ!?」

後ろにいた筈の彼女はチャラそうな恰好の男にナンパされている。
しかし、彼女はナンパされている事に気付いていないのか、視線を合わせることも反応する様子もない。

「ねぇねぇ、返事くらい」
「触るな」

伸びてきた手を掴んだと思うとそのまま関節を外す。

「うぎゃあああああああああああああああああ!?」

関節を外された男は苦悶の声を上げる。
男が悲鳴を上げた事に周りの人達が何事かという視線を向けた。