「お前様、また会えて嬉しいぞ、さぁ、(ころ)し合おう」
「遠慮、します」

ぐいぐいと近づいてくる相手に僕は距離をとる。
誰もが見ほれるような美貌を持つ絶世の美少女。
だが、彼女は人ではない。
その正体は鬼、妖怪達が住まう妖界の治安を守る青鬼の頭領の娘。
青鬼は妖術が得意であり、彼女の角やその肌は父である青鬼の頭領によって隠されている。
今はどこにでもいる学生の女の子。
って、あれ。

「なんで、この学校の制服を着ているの?」
「ユウリから借りたのだ」
「アタシが貸したの!とっても似合うね~」

特別教室のドアが開くと瀬戸(せと)ユウリさんがやってきた。
笑顔で青鬼の彼女とハイタッチする。

「いつもの服と違う素材故に慣れない感覚だが、不思議と悪くないな。お前様はどう思う?」

そういってスカートの裾を広げる。
スカートの中から覗く無駄のない鍛えられた足がみえた。
術で肌色の足、普段は青色だからかいつもと違う雰囲気にみえて。

「もしや、魅力を感じてくれているのか?そうなのか?」

無表情だが、目をキラキラさせてずんずんと近づいてくる。

「ち、ちょっと、近い、近いよ!」
「我らはいずれ夫婦(めおと)になるのだ。むしろ離れすぎているのではないか?」

きょとんと首を傾げながらさらに距離を詰めようとしてくる。
咄嗟に椅子を壁代わりにして防ぐ。

「むぅ」

阻まれた事に頬を膨らませる。
無表情だけど、リスみたいに膨らんでいる姿はどこなく可愛く。

「いかんいかん」

首を振る。
僕は色々あって目の前の青鬼の少女に好意を寄せられている。
その好意を受け取らない方がいいと新城から警告をもらっていた。
実際、彼女の好意というのは人と違う。
愛しい相手と斬り合う事、その中で相手を知り、より相手を愛するという理解できないもの。
彼の言う通りになるべく距離をとろうとしているんだけれど、うまくいっていない。
隙あらばこうして彼女から距離を詰められている。

「ふむ、ユウリのアドバイス通りにしてみると効果てきめんだな」
「……なぬ?」
「シー、シー!」

彼女の後ろに隠れる瀬戸さんをみる。
確信犯の瀬戸さんをみようとした。

「旦那様、ユウリではなく、私をみるんだ。将来の――」
「あ、疲れたぁ!」

音を立てて教室の扉が開く。
入ってきた新城は僕達の方を見る。

「何やってんの?」
「えっとぉ」
「待っていたぞ。新城凍真」