「さあ、お前についてはどうしようかしらねえ」

 美代は蓮華を蔑み、大きくため息をつく。

「出生を隠匿されているお前に縁談が舞い込むはずもないでしょうし、屋敷にいつまでも置いておくのも目障りだから、いっそ女郎屋にでも売り飛ばすべきかしら」

 蓮華ははたり、と手を止める。

「ここにいてもなんの役にも立たないのだし、むしろ、多少の金銭に替えられた方が、ここまで面倒をみてやった巴家への恩返しだとは思わない?」

 千代は口元をおさえてクスクスと笑っている。

 女郎屋がどのような場所であるのかを蓮華は知らないわけではなかった。生きるためにはすがるしかない。感情など消して、傀儡のように生きる以外の道はない。

 蓮華は手足を震わせながら、静かに頭を下げた。

「申し訳……ございません。申し訳」
「私がどれほどの屈辱を感じていたか、お前には分からないでしょうね。よくもまあ、あの溝鼠の娘をここまで置いてやったと言いたいところよ」
「申し訳っ……ございません」
「非嫡出子が! 気持ち悪いのよ! お前の母親は死んで詫びた。お前を産んだことは間違いだったって。だったらいいじゃない。どこぞの女郎屋で野垂れ死んだって、誰も文句は言わないわ」
「申し訳ございません……!」

 なんでもする。なんでもするから、どうにかここに置いてほしい。縋りつくべきなのに、最近はまともに食事をとっていないためか、どうにも躰に力が入らない。

 美代は激しく罵倒すると、蓮華の目の前まで歩み寄り、髪の毛を強く引っ張り上げた。

「この顔……ますますあの女に似てきて。腹立たしい」
「うっ……」
「カナリアでの夜会で‟遊んでもらって‟分かったでしょう? お前と私たち華族は住む世界が違うの。よい縁談だって、すべて私の娘たちにある。だから、お前はここにいてはいけない存在なのよ……?」

 悲しみや痛みといった感覚は、とうの昔に忘れた。残っているのは空虚な心のみ。

 母親に見限られ、血のつながった父親にも認知してもらえず、義母や姉たちに罵られながら生きてきた。

 時に泥水を啜ることも厭わず、地べたを這いずった。そのように生きるしかなかったのだ。


(だが、どうして)


 蓮華の足元が揺らぐ。その下には底なしの闇が広がっていた。肩の力が抜け落ち、すがりつく気力がなくなった。

(……少し、疲れてしまった)