三十分かけて移動し、蓮は有料駐車場に車を停めた。

「着いたよ。ここから少しだけ歩くけど、大丈夫だよね?」

「あ……ここって……」

 車を降りて、駐車場から見える木々や遊具を視認して現在地を把握した。

 先日、菫との境界線が曖昧になったときに、菫のことを知るために縁のある場所を回っていた際に訪れた泉彩公園だ。

 子どもからお年寄りまで幅広い年代が訪れると聞く公園だ。晴陽は馴染みがないので周辺情報にも疎いが、彼らをターゲットにした食事処がたくさんあるのだろう。

 そう思った晴陽はなんの疑いもなく、公園内に入っていく蓮に子鴨のように従順に付いていった。

「やっぱ川が近いと寒いですね」

「そうだね。寒いけどもう少しだけ、ほとりの方まで行ってみない?」

 周辺の店に行く気配もなく時間をかけて懐かしむように散歩する蓮に、次第に晴陽はそこはかとない不安を抱き始めた。だけど「お祝いがしたい」と言ってくれている手前、余計なことを言って蓮を不快な気持ちにさせるのは憚られた。

「オレたちの関係ってさ、周りから見たらどう推測されているんだろうね? 恋人、友人、親子、兄妹、親戚……ね、晴陽ちゃんはどう思う?」

「うーん、顔や雰囲気が似ていないので血縁関係は除外されそうですよね。かといって、恋人にしては距離感がありますから……友人、でしょうか」

「正しいけど、嬉しくない回答だなあ」

 笑ってはいるけれど、どうやら晴陽は選択肢を間違えたらしい。蓮の機嫌は少々斜めになってしまったようで、それからは晴陽が何を話しかけても素っ気ない反応しか返ってこなかったため口を閉じることにした。

 この時期、川のほとりに近づく物好きは晴陽たち以外にはいなかったらしく、肌を刺す冷たい風に身を縮めながら二人で水の音を聞きながら歩いていた。

「オレね、自分のものさしで勝手に物事を決めつける人が嫌いなんだ。『アイコスだったら吸っていいだろ?』とか言って、許可も出してないのに喫煙しようとする奴とか、『消化にいいんだよ』って皆が食べている唐揚げにレモンをかけるお節介な女の子とかね」

 沈黙が続く中、不機嫌だと思っていた蓮が始めた突然の自分語りに目を瞬かせつつも、向こうから振ってくれた雑談を嫌がる理由はない。

「わたしは未成年なのでよくわかりませんが、蓮さんは自分勝手な人が苦手ってことですね」

「うん。アイコスだろうがオレは煙草が嫌いだし、消化に悪くても唐揚げはそのまま食べたい。――だからね晴陽ちゃん。オレは凌空くんの、他人の性格や思考を勝手に決めつけてくるところが嫌いなんだ」

 周囲に人がいない状況と、凌空が嫌いという発言が晴陽の不安に拍車をかけた。蓮は何が言いたいのだろう。
 岩場を歩いていた彼は、足を止めて振り向いた。

「凌空くんを描きたいっていう菫の願いは、叶ったの?」