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 小学校入学と同時に与えられた自室にあるベッドは東側の窓に沿って配置してあるため、これでもかというくらいに朝日が入り込んでくる。

 晴陽は朝が好きだし、早起きも好きだ。今日も目覚ましが鳴る前に目を覚ました晴陽は、ぐっと背伸びをしながら胸の前で手を合わせた。晴陽には毎日、起床時と就寝前に神様に感謝を告げる習慣がある。

 ――神様、今日も私を生かしてくれてありがとうございます。

 命があるからこそ、凌空を見ることができる。この気持ちを伝えることができる。

 当たり前のように過ごす一日は、かけがえのない奇跡の結晶であると晴陽は知っている。

 季節は十一月。段々と寒さが厳しくなってきても、晴陽は布団から出ることを躊躇しない。

「おはよう晴陽。今、お味噌汁温めるからね」

 居間に顔を出すと、母はそう言ってガスコンロに火をつけた。ダイニングテーブルに腰かけた晴陽はサラダに箸をつけながら、忙しく動き回る母の様子をぼうっと眺めた。

 朝からパートがあるのにもかかわらず、『健康な体は食から作る』というモットーを掲げる母は、毎食栄養バランスが完璧に整った食事を用意してくれる。

 納豆をかき混ぜていると、母はテーブルの上に味噌汁の入ったお椀を置いた。

「体調はどう? 辛くない?」

「大丈夫だよ。今日も楽しく過ごせそう」

 毎朝恒例の質問にも面倒臭がらずに答えると、母は安心したように笑って対面に座り、晴陽が食事をする様子を見つめた。高校一年生の娘に対しては些か過保護な行動に、将来子離れできるのか心配になってしまう。

 ただ、過去に迷惑をかけてしまったという負い目からだろうか。晴陽が母を邪険にできないことも過保護を増長させてしまっているなと自覚はしている。

「ごちそうさま。じゃあ、行ってくる」

 コップに水を注いで、複数の錠剤を胃の中に流し込む。ルーティン化された作業を素早く済ませて、玄関まで見送りに来る母に背を向けて扉を閉めると、外のひんやりとした空気が晴陽の肌を活性化させたような気がした。

 今日の凌空は一体、どんな顔を見せてくれるだろう。

 期待に胸を膨らませながら学校へ向かった。