母親の愛と苦労が感じられる、三段の弁当箱にぎっちりと詰められたすべて手作りだというおかずを早くも平らげた明美は、残る白米を飲み込んでからイヤホンを取り出した。
「まあそう落ち込むなって。あっくんのアルバム曲に超イイ失恋ソングがあんの。聴かせてあげるから耳貸して」
「まだ失恋してないっつの」
昼休みになってすぐに凌空のクラスへ参じたものの追い返されてしまった晴陽は、泣く泣く教室に戻って明美と弁当をつついていた。
振られ慣れているとはいえ、今回ばかりは晴陽の努力だけではどうしようもできないのかもしれない。そう考えてしまうと、焦燥感と絶望感が襲ってくる。
「いや、でも諦める理由にはならない! ちゃんとごはん食べて、また放課後凌空先輩のところに行ってくるわ!」
自分に言い聞かせるように好物の唐揚げを頬張っていると、背後から肩を叩かれた。
「なんか暗い顔してるな。幸せが逃げるぞ?」
ダメージの蓄積で油断したら涙が零れそうな晴陽とは対照的に、翔琉はやけに機嫌がよさそうだった。
制服の着崩し方はチャラいが笑顔や雰囲気は爽やかで、手に持った紙パックのオレンジジュースのイメージキャラクターにすら見えてくる。
「よ、明ちゃん元気? 相変わらずフッサフサの睫毛してんね!」
「距離感を考えて! オタクはすぐに惚れるんだからね⁉」
明美はオタクを公言しているくせに、なぜか男子の前では声優好きだということは隠して、漫画・アニメオタクとして通している。晴陽からしてみればどちらも変わらないと思うのだが、明美にとっては譲れないラインなのだそうだ。
明美の好きなあっくんと翔琉は真逆のタイプだが、明美は惚れっぽいところがあるのでそう遠くない未来に恋愛相談でも受けるのかもしれない。そうなったら、友人としてしっかり諦めるよう諭してやるつもりだ。
「久川はやけに元気じゃん。なんかあった?」
「美術室に新しいイーゼルが増えていたから、見ちゃったんだよね。この間、おれが気を遣ってやった成果が出てるじゃん! 都築先輩の絵、いつ頃完成しそう?」
屈託のない笑顔が今の晴陽には眩しすぎて直視できなかった。だが協力してもらった手前、嘘を吐いたり適当な言葉で逃げを打ったりしてはいけないと思った。
「……うーん……しばらくは無理かも」
「なんで?」
今までとは全く質の違う理由で避けられ、話しかけることすら許されないほど拒絶されていることを伝えると、翔琉は難しい顔をしていた。
「……おれ的にはさ、逢坂にはどうしてもあの絵を完成させてほしいんだよ。だからそういう意味では、お前の恋路を応援してやりたいと思ってる」
翔琉の表情は真剣そのものだった。
「おれに何かできることがあったら言って。できる限りのことはするから」
明美が小首を傾げていたが、どうして翔琉がここまで言ってくれるのかは晴陽にもわかっていなかった。
「まあそう落ち込むなって。あっくんのアルバム曲に超イイ失恋ソングがあんの。聴かせてあげるから耳貸して」
「まだ失恋してないっつの」
昼休みになってすぐに凌空のクラスへ参じたものの追い返されてしまった晴陽は、泣く泣く教室に戻って明美と弁当をつついていた。
振られ慣れているとはいえ、今回ばかりは晴陽の努力だけではどうしようもできないのかもしれない。そう考えてしまうと、焦燥感と絶望感が襲ってくる。
「いや、でも諦める理由にはならない! ちゃんとごはん食べて、また放課後凌空先輩のところに行ってくるわ!」
自分に言い聞かせるように好物の唐揚げを頬張っていると、背後から肩を叩かれた。
「なんか暗い顔してるな。幸せが逃げるぞ?」
ダメージの蓄積で油断したら涙が零れそうな晴陽とは対照的に、翔琉はやけに機嫌がよさそうだった。
制服の着崩し方はチャラいが笑顔や雰囲気は爽やかで、手に持った紙パックのオレンジジュースのイメージキャラクターにすら見えてくる。
「よ、明ちゃん元気? 相変わらずフッサフサの睫毛してんね!」
「距離感を考えて! オタクはすぐに惚れるんだからね⁉」
明美はオタクを公言しているくせに、なぜか男子の前では声優好きだということは隠して、漫画・アニメオタクとして通している。晴陽からしてみればどちらも変わらないと思うのだが、明美にとっては譲れないラインなのだそうだ。
明美の好きなあっくんと翔琉は真逆のタイプだが、明美は惚れっぽいところがあるのでそう遠くない未来に恋愛相談でも受けるのかもしれない。そうなったら、友人としてしっかり諦めるよう諭してやるつもりだ。
「久川はやけに元気じゃん。なんかあった?」
「美術室に新しいイーゼルが増えていたから、見ちゃったんだよね。この間、おれが気を遣ってやった成果が出てるじゃん! 都築先輩の絵、いつ頃完成しそう?」
屈託のない笑顔が今の晴陽には眩しすぎて直視できなかった。だが協力してもらった手前、嘘を吐いたり適当な言葉で逃げを打ったりしてはいけないと思った。
「……うーん……しばらくは無理かも」
「なんで?」
今までとは全く質の違う理由で避けられ、話しかけることすら許されないほど拒絶されていることを伝えると、翔琉は難しい顔をしていた。
「……おれ的にはさ、逢坂にはどうしてもあの絵を完成させてほしいんだよ。だからそういう意味では、お前の恋路を応援してやりたいと思ってる」
翔琉の表情は真剣そのものだった。
「おれに何かできることがあったら言って。できる限りのことはするから」
明美が小首を傾げていたが、どうして翔琉がここまで言ってくれるのかは晴陽にもわかっていなかった。