逢坂晴陽(おうさかはるひ)には、好きで好きで大好きで大大大好きで仕方のない、片想い中の人がいる。

 語彙力を失ってしまうほどの恋をしている晴陽はいつも、彼の姿を見つけると、気持ちが抑えられなくなってしまって体が勝手に動き出す。

「好きです! 付き合ってください!」

「断る」

 通算300回目の記念すべき愛の告白が300回目の失敗に終わり、晴陽は肩を落とした。

 晴陽の告白を朝の挨拶程度にあっさりと流した眼前の青年――都築凌空(つづきりく)は、一度も顔を上げずに頬杖をつきながらスマホを操作している。

 朝のホームルームが始まる前の時間帯に二年生の教室に後輩が訪れて交際を申し込むなんて、わりと珍しい光景だと思う。だが晴陽から凌空への告白に限っては、この学校の生徒なら見慣れた日常の一つに過ぎないので誰一人反応することはなかった。

「なんで私じゃ駄目なんですか? 私はこんなに凌空先輩のことが好きなのに!」

「君がいくら俺のことを好きでも、俺が君のことを恋愛対象として見ていない」

 目線は上げないまま、凌空はいつものように晴陽を一刀両断する。

 だが、これまでに幾度となく振られ続けてきた晴陽はこれしきのことで折れはしない。落ち込む暇があったら、自分と付き合うメリットについてプレゼンテーションをした方が有意義だ。

「私は浮気なんて絶対しませんよ? めっちゃ尽くしますし、大切にします!」

「信用できない。大体、その言葉って君の主観でしか証明できないわけだろ?」

「はい、その通りです!」

「俺は君の魅力も、付き合う意味もわからない。だから付き合わない。以上」

「わかりました! また時間を改めて来ますね!」

 めげずに笑顔を向けると、ずっと無表情だった凌空はその綺麗な顔を歪めて盛大に溜息を吐いた。そして今日初めて目を合わせてくれたかと思えば、

「鬱陶しいって言ってる。もう、来んな」

 十六歳とは思えないほど冷酷な目で、晴陽を睨みつけた。

 誰が見ても、誰に聞いても成就は不可能だと言われる恋をしている晴陽は、自分でも凌空に対する溢れんばかりの恋心について不思議に思うことがある。

 凌空を一目見たその瞬間、恋に落ちていた。彼との未来以外考えられなくなった。

 どうして彼に惹かれるのだろう、どうしてこんなにも好きなのだろう。

 恋愛感情を抱く相手が凌空でなければならない理由を考えてみても、晴陽の中にある語彙では適切な表現ができなかった。だけどたとえ世界中の言葉を集めてみたところで、結局彼への想いを言い表すことなんて、できそうもない。

 だけどきっと、世界中に溢れている『恋愛感情』も、理由や理屈で説明できる方が少ないのだと思う。

 それゆえに――晴陽は今日も、愚直に好意を伝えていく。