「はちかど、みなみ…」
俺はそう言って、その名を何度も繰り返してみる。俺の前世の名前。
葉鍵時雨の前世は、八角美波。
「美波は、どういう人だったの…?」
俺は、日照に訊いてみる。
「それからは、まだ思い出せないままだ…。どうして、俺は生きてる時の記憶が曖昧なんだろう…」
日照は、悔しそうな顔をして、そう言った。日照の生きていた十六年間の思い出を思い出せないなんて、きっととても辛いだろうに。
日照はどうして、幽霊という第二の人生を選んだのだろう。
「…美波って、いい名前だよね。綺麗っていうか、なんか透き通ってる感じ」
俺はそう言って、前世の俺がどんな人だったのか思い浮かべる。きっと、今の俺とは違って、優しかったのだろう。
そういえば、俺って、いつからこんなのになっちゃったんだっけ。
こんな、他人のことに興味のない、酷くて暗くて、何かに挑戦することの心さえも見失ってしまった自分に。
過去の記憶を思い出したくないからと言って、いつまでも逃げ続けている。
「おい、表情暗いけど、どした?」
「あっ!…ごめん」
美波、こんな人に生まれ変わってしまって、ごめんなさい。
俺は、日照にばれないようにして、ごまかすように空を見上げる。なんかあるだろ、と言わんばかりの顔をしている日照を横目に、深く呼吸をした。すると、心の中が浄化されていく感じがした。
「今日は美波の名前も思い出せたしぃ、大収穫じゃん?」
「〆の言葉言ってるけど、明日の集合場所決めて早く終わりにしろってことですか」
「いや違うし、てか明日も会おうねって言ってるのと一緒だけど、それ」
「やっぱ取り消しで…」
最後に時雨照れてる、照れてると日照に言われるのはだいぶ不快だったけれど、少し日照のことを知れた日だと思った。
昼飯を食べたくなったという理由で、じゃあまた、と別れた。
明日は日照の「散歩がしたい」という要望に応えて、田んぼを両側にして伸びる一直線の田舎道を歩きながら話すことになった。
『おい、表情暗いけど、どした?』
そう言われた時よりも、心が明るくなった気がする。それも、日照のおかげなのかな。
そんなことを思いながら、余った駄菓子が入った袋を控えめにふり回して帰った。
昼時の太陽は、まぶしかった。
俺はそう言って、その名を何度も繰り返してみる。俺の前世の名前。
葉鍵時雨の前世は、八角美波。
「美波は、どういう人だったの…?」
俺は、日照に訊いてみる。
「それからは、まだ思い出せないままだ…。どうして、俺は生きてる時の記憶が曖昧なんだろう…」
日照は、悔しそうな顔をして、そう言った。日照の生きていた十六年間の思い出を思い出せないなんて、きっととても辛いだろうに。
日照はどうして、幽霊という第二の人生を選んだのだろう。
「…美波って、いい名前だよね。綺麗っていうか、なんか透き通ってる感じ」
俺はそう言って、前世の俺がどんな人だったのか思い浮かべる。きっと、今の俺とは違って、優しかったのだろう。
そういえば、俺って、いつからこんなのになっちゃったんだっけ。
こんな、他人のことに興味のない、酷くて暗くて、何かに挑戦することの心さえも見失ってしまった自分に。
過去の記憶を思い出したくないからと言って、いつまでも逃げ続けている。
「おい、表情暗いけど、どした?」
「あっ!…ごめん」
美波、こんな人に生まれ変わってしまって、ごめんなさい。
俺は、日照にばれないようにして、ごまかすように空を見上げる。なんかあるだろ、と言わんばかりの顔をしている日照を横目に、深く呼吸をした。すると、心の中が浄化されていく感じがした。
「今日は美波の名前も思い出せたしぃ、大収穫じゃん?」
「〆の言葉言ってるけど、明日の集合場所決めて早く終わりにしろってことですか」
「いや違うし、てか明日も会おうねって言ってるのと一緒だけど、それ」
「やっぱ取り消しで…」
最後に時雨照れてる、照れてると日照に言われるのはだいぶ不快だったけれど、少し日照のことを知れた日だと思った。
昼飯を食べたくなったという理由で、じゃあまた、と別れた。
明日は日照の「散歩がしたい」という要望に応えて、田んぼを両側にして伸びる一直線の田舎道を歩きながら話すことになった。
『おい、表情暗いけど、どした?』
そう言われた時よりも、心が明るくなった気がする。それも、日照のおかげなのかな。
そんなことを思いながら、余った駄菓子が入った袋を控えめにふり回して帰った。
昼時の太陽は、まぶしかった。