店を出て、また最初の公園に戻る。少し早歩きで、坂を登る。
「ついた…」
「時雨お疲れ様です!」
俺は、早速日照に頼まれたお菓子を手渡す。
「日照が途中でせんべい欲しいって言うから、バレる寸前だったじゃん…」
「小声なら大丈夫だろ!ほら、時雨も食べようぜ」
俺は、日照がせんべいを食べ始めないことに違和感を感じる。
「まさかお前さぁ…本当に食べられないとかじゃないよね?」
「気分だけ味わいたくて、食べないけど?あれ、正確に伝えてなかったのか、俺」
そんな、まさか。俺は、そのお菓子がどうなるのか、なんとなく見当がついてしまった。
「だからー、このお菓子たちは全部時雨にあげまーす!後で持って帰って!」
「だと思ったわ。もう二度と日照と買い物なんてしたくない、まじで」
「なんでだよ!?お菓子もらえるんだぞ!?」
だったら自分の好きなお菓子を買いたかったってこと、という言葉は飲み込んだ。

「…結局、俺はまだ日照の幽霊事情をなにも聞かされてないんだけど」
買ったお菓子を食べながら、俺は日照にこう言った。
日照が幽霊となって、俺の前に現れていること。
前世親友だったという俺と共に、日照の前世の記憶探しに、俺がどうして手伝わなければならなくなったのかということ。
そして、前世の俺と今の俺に、何の関係があって、日照はどうして成仏されていないのかということ。
全て、謎のままだ。
「俺もわかったらいいんだけど、本当に生きてる時の記憶が全然思い出せないんだ。何回も言ってごめん。ただ、記憶の限界まで思い出してみると…」
しばらく日照は黙り込んで、ちゃんと考えていた。
空を見上げると、もうすっかり夏の空だった。雲ももくもくしていて、夏の雲だ。
暑い日が続いているけれど、まだ外には出られる。たまに吹く風が気持ちよく感じた。
まだかな、と思った時、日照の口が開いた。
「俺は、時雨の通ってる高校の屋上で死んだ。病気だった。で、一人、親友がいたんだ。それが、時雨の前世だ。男で…優しかった。同い年だったと思う。名前は…だめだ、やっぱり思い出せない」
ざっくりとした感じのものは、大体出てきたようだ。
「これで、思い出せるものは全部?」
「かなぁ…。時雨の前世の名前は、なんかここまで来てるんだよ、ここまで」
のどのあたりを指差して、日照は言う。
そして、日照はまた考え出す。すると、なにか思い出したように、ぱっと顔を上げた。
「なんか、水に関する名前だった気がするような…!」
俺は、それを聞いて、名案を思いつく。
「じゃあ、俺が水っぽい単語言っていくから、頑張って思い出して」
「わかった!」
なんとなく頭に浮かんだものから順に、言っていく。
「海、川、雨、水面、あめんぼ、プール、水道、小川…」
特にピンとくるようなものがないようだ。
「汗水、水滴、梅雨、波…え?なに、あった?」
突然、日照がこちらを向いた。
「思い出した。思い出した…!」
「え、なになに」
美波(みなみ)…美波だ、美波、八角(はちかど)美波(みなみ)だよ、しっくりくるもん、懐かしい!!」