「時雨、おかえり。せっかく来たんだから、今夜のお祭りにも行きなよ」
「ばあちゃん、ただいま。お祭りには、必ず行かなきゃなんだ。俺の親友と約束してるから」
あら、とばあちゃんが笑うのを見て、俺もニッと笑った。
「やっぱり、こっちの方が暑いわ」
「そうよ。もう、エアコンがなくちゃ生活できない!」
「でも、空気はすっごいおいしいよ」
ばあちゃんに、今度塩アメを買った方がいいって言ってあげよう。塩分も大事って教えないと。
蝉が元気よく叫んでいる。俺も叫びたい。
網戸の外から見える入道雲が、絵に描いたようだった。
あの夏に、本当に戻ったみたいだ。
四年前の夏休み。俺は、日照に出会った。それから、俺は、自分でちゃんと変わろうと、決意ができたのだ。
日照と出会って間もない頃、たしか一晩かけて、自分と向き合った夜があった。そのきっかけをつくってくれたのは、日照だ。
俺が他人に対して酷いことを言ってしまうことから、それで人と関わることを諦めた。
それって、ただ本当の自分の気持ちに背を向けているだけじゃない?
みんなは俺のことを見てくれているのに、俺は自分で自分に目隠しをつけていた。それでいて自分の口はふさがないって、あまりにも酷すぎる。酷いことを言ったことよりも、そんな態度の方がもっと酷い。
いい加減、もう自分の気持ちに噓をつくのはやめた。
人に対する感謝や敬いを、見失わない。
本当に俺が望んでいたものは、これだった。
日照が、俺の背中を押してくれた。俺が思う以上に、周りが暖かいと、気づかせてくれた。自分がそう思えるならばそれでいい、その気持ちさえあれば怖いものはない、と。
日照に出会わなかったら、俺は今、こんな充実した日々を送っていなかったと思う。
そのことも、今夜ちゃんと言えるといいな、と思った。
「…待っててね、日照」
小声でそう呟く。
『待ってるよ』
そんな日照の言葉が、聞こえた気がした。