「あら、時雨、お祭り行くの?」
「うん。まぁ…例のあいつと」
「日照くん?…成仏がんばってね」
わかった、と言って、俺は家を出た。ばあちゃんには、お見通しか。
夕暮れ時の空の下、ワイワイガヤガヤと賑わう周囲。学生、カップル、子供連れの家族等々がたくさんだ。こんな小さな田舎町の祭りですが。
突然、すぅっと、冷たい風がぬける。これは。
「…日照か」
「もー、すぐわかるようになっちゃって」
人が多い分、紛れて日照と喋れるのはありがたい。
「なんか飲み物買っていい?」
俺は、自販機でペットボトルの炭酸飲料を買った。せっかく祭りなんだから屋台で買えよ、と言われたので、シンプルが一番と返し、また歩き始める。
祭りって、周りの色が濃い。久しぶりすぎて、目がチカチカしてしまう。
日照はとても楽しそうに、あたりを見回しては目を輝かせていた。
「せっかくなんだしぃ、なんか思い出に残るようなもの買っていこうぜ」
「何買うの?」
日照が指差した方を見る。げ、と、思わず声が出る。
「スーパーボールすくいとか、高校生がするもんじゃないじゃん…」
「楽しけりゃいいんだよ!!ほら、二回やって来い!」
うわぁ、恥っず。てか日照、何狙いなんだよ。そして、何目当て?
結局、金魚らしき形をしたマスコット(果たしてスーパーボールなのか)を、赤は日照、水色は俺で分けた。
色々屋台を見ているうちに、段々日が暮れてきた。もうすぐ花火が打ちあがるだろう。
「あーあ、楽しい時間があっという間に終わって、俺の成仏の時間になっちゃったー」
日照は悲しそうな目をして言った。
「…美波と行った感じはした?楽しめた?」
「うん。あとは花火ってところかな。…お、上がってきた」
すっかり暗くなった空に、綺麗な花火が咲き誇った。周囲から歓声が上がる。
「…日照、ありがとう」
「なに、急に。まあ俺も、ありがと」
「日照、もうちょっとで消える?」
「うーん…そんな感じがする。花火が終わったら、かも」
花火、このまま永遠に続け。
「俺…やっぱり消えたくないなぁ…」
「だったら、美波と同じように、また約束しよう」
「そうしたら、また再会できるよな。俺も時間が経てば…」
「じゃあ…」
深く息を吸って、俺は言う。
「四年後に、また会おうね」
二十才になったら、また。
「うん、会おう」
花火の打ちあがって咲く音が響いている。空は、明るくなって暗くなってを繰り返している。
「…もう、最後に近づいてるね」
花火も、日照も。
「俺は、最後じゃない。美波と会ってくる。それで、また時雨と会う約束したから」
花火の大きさが、大きくなっていく。鼓動が、早くなっていく。
「…またね、日照」
「うん。…また、会おう」
「もちろん。…ちょっとの間だったけど、本当にありがとう」
「俺も。本当にありがとう…じゃあな、絶対会いに来るから」
「じゃあね」
最後の花火が咲いた瞬間。
「バイバイ」
その言葉と共に、日照は姿を消した。花火よりも輝くようなあの笑顔のまま、空へ帰っていった。