「…日照、久しぶり」
「時雨…」
俺は日照が来てくれるんじゃないかと思い、日照の記憶探しが始まった最初の日の公園で待っていた。
「時雨、俺、お前と会ってない間にも、思い出したことがあったんだ。もう…成仏が近づいてる」
「どんなこと?教えて」
日照は、深呼吸をして、俺に話しかける。
「…夏って、三つに分かれるんだって」
俺はその言葉に、妙な懐かしさを感じた。俺が、前に言ったような。
日照に、教えたような。
「…これ、美波が教えてくれたんだ。時雨、わかる?」
初夏(しょか)と、仲夏(ちゅうか)と、晩夏(ばんか)…」
俺、いつ言ったんだろう。美波、それ、俺の記憶じゃないの?
「それは、前世の記憶だよ、時雨」
前世の記憶は、俺にないはずなのに。なんで、こんなにも懐かしい?
日照が口を開く。
「俺、わかっちゃったんだ。美波とした約束…」
病院の廊下に、夏祭りのポスターが貼ってあったのが見えたんだ。俺と美波で、
『夏祭りに行こう』
と言った。ちょうどあと一週間で、わくわくしていた。だけど、俺の体調が、日に日に悪くなっていったんだ。
そんな俺のところに、美波がお見舞いに来てくれた。それで、夏の話をしてくれた。
夏祭りまであと三日になった日。俺の体調はほんの少し回復した気がして、学校に行った。
そしたら、すとん、と、この世界に別れを告げられた。
やっとみんなみたいにできる日が来ると思ったのに。
俺は、死んだんだ。
そう、日照は言った。
「その二年後に、美波が死んだ。十八才で、体調がどんどん悪くなって、肺の病気が見つかった。その何週間かした後に…」
日照は、泣いていた。俺はただ、無言で日照の話を聞くしかなかった。
「俺はっ…ただ、美波ともう一度会いたかっただけなのに…。時雨と出会った時から、ああ、やっぱりもうちょっとここにいたいかもって、思ってきちゃって…。だけどそう思えばそう思うほど、探したかったはずの記憶が戻ってきて、なんか複雑になって…」
「でも!…俺は、日照と出会えて、大切なものを取り戻した。だから、無駄じゃない。美波に、ちゃんと言うんだよ」
「…うん」
「…また、夏祭りで会おう。大丈夫。まだ、可能性はある」
日照がこぼした涙の一粒一粒に、意味がある。思いがある。それは、美波にだって届いてるはずだ。
だから、この夏祭りで、約束を果たそう。