俺は、最近日照と顔を合わせていない。それはなぜかというと、この前話してくれたことについて、俺が少し考えたかったからだ。
この前話してくれた日照の記憶は、あまりにも情報量が多すぎた。急に、一気にドサっと来たような。
美波は、どうして幽霊にならず、俺として生きてる?日照の美波と果たせなかった約束って、何?
そんなことを考えて、もう二週間を過ぎようとしている今日。何か、自分にできることは。
「もう無理っ…」
独り言をつぶやいて、また考えてみようとした時、ばあちゃんの声がした。
「時雨、ちょっと下へ来てみなさい。ずっとそこにいるから、何も進まん。少しリフレッシュするのだって、一時は必要になる大切なことなんだよ」
なんとなく、行かないといけない気がした。こういう時のばあちゃんの話って、大切だから。
「…ばあちゃん、ありがと」
「何でも話してみなさい。…ほら、何があった?」
俺は、もう全て話すことにした。これは信じてもらえなくてもしょうがない。
「…ってわけなんだけど」
「それは、本当?はははっ、すごいなぁ、それは。私にはそういうものないから、難しいね」
ばあちゃんは、「でもね」と話を続けた。微笑んでいた。
「美波くんと時雨は、前世というもので繋がっているけど、それ以上の関わりはないと言えるだろう。それに対して美波くんと日照くんは、その当時のまま、繋がっている。結局、紐をほどくのは、時間なんだよ。前世やら幽霊やらというものが生まれるのは、時のズレ。ただ残念なことに、この世の時間は止められない」
「じゃあ、どうしたら…」
「その当時のまま、すればいいんだ。自分が体験していなくても、過去にあったものは、必ずその時の様子がある。いつ、どこで、何を。それさえわかったら、段々と蘇る。季節、行事、モノ…。そうしたら、きっと成仏できるんじゃないかな」
ばあちゃんの言っていることが、わかった気がする。過去を思い出すために、その当時のことをくわしく想像する。その先には、きっと、鮮明なものがあるんだ。
「夏に出会ったんだから、なにか夏に関係があるんじゃない?」
「確かに…。ばあちゃん、ありがとう。俺、できるだけ、やってみるよ」
がんばれ、と言い残して、ばあちゃんは夕飯の支度を始めた。俺はもう一度部屋に戻った。
明日、ちゃんと会ってみよう。