「なにこれ? 可愛い! ここって若い娘向けの洋服屋さん?」
ラルは店先に並ぶ色とりどりな商品を前にして、その目を輝かせた。
「やっぱり、そう思いますよね。実はこれ全部、女性冒険者向けの装備品なんです。もちろん全商品に付与魔法が掛かっています。母さんは僕よりもクラフトの技術が高いので、ポーション系よりも武具やアクセサリーの加工品が多いですね」
少年は数枚の色とりどりに加工された革を手にすると、机の上に並べ始めた。ラルの目にもそれらに魔法が付与されているのがわかる。
「うちではオーダーメイド品の作成から、装備を持ち込んで付与魔法だけ掛ける事も出来ます。一番人気があるのは、これみたいな、既製品の装備に付与魔法を掛けた革や布を貼り付けて加工する半オーダーメイドですね」
女性が好みそうな可愛らしいデザインが刻まれた革を、自分の胸当てに重ねて当てて見せるサント。
「自分の装備に付与魔法を掛けてもらうのでは駄目なの?」
「パーツを分けることによって、複数の付与魔法の効果が期待できるんですよ。もちろん、ただ張り合わせただけでは駄目で、母さん独自の手法で仕上げる必要が有るんですけど」
ラルは女性用の胸当てを手に取り、裏表じっくりと確認してみる。
――独自の手法か。だから鑑定の魔法でも見抜けないのかな……。興味あるなぁ。
「母さんが冒険者をやっていた時に、無骨なデザインが多く、女性向けの商品が少ない事が不満だったらしくて、実家のお店を継いでからはもっぱら女性向けの商品を拡充したそうですよ」
「そういえば、ギルド長が代々付与魔法剣士の家系だって言っていたわね。お母様も付与魔法剣士だったの?」
「はい。付与魔法剣士は母方の家系ですね」
「ここの出店には冒険者向けしか置いていませんが、母さんがいる地上のお店には、女性の旅人や商人向けの装備も有りますよ」
「へぇ……えっ、ウソ! KARENの下着も売っているの! これ王都の貴族でも奪い合いになるぐらい、品薄で激レアな商品なのに!」
ラルが柔らかく伸縮性のある下着を掲げ、食い入るように見ている。純白の下着が魔術師の手によってヒラヒラと舞った。
「あっ、それは母さんの工房で作っているブランドですね。KARENは母さんの名前なので……。男の僕としては、商品説明するのが少し恥ずかしいですけど。それらも冒険者時代に必要だったって、嘆いていましたよ」
「あ……分かる気がするわ。女の子には特有の悩みが有るからね。って、サント君がKARENの息子!? そもそもKARENって冒険者だったの?」
「あはは。僕も知らないですけど、母さんは通り名で登録していたみたいですから。でも、元三つ星だったらしいですよ」
「元三つ星でこんな可愛らしい趣味の冒険者なんて居たかな? 後で是非ともKARENさんに会わせてちょうだいね」
「こちらこそ、五つ星の方に使って貰えたら、母さんも喜ぶと思いますよ」
でも、とサントが申し訳無さそうに続ける。
「ラルさん、そろそろ地下に行かないと今日中に帰って来られなくなりますよ」
「あぁ、そうね。まだサント君に何も買ってあげていなかったわね……。これなんかどうかしら? サント君の金髪に似合いそうじゃない? 幸運値の付与魔法も掛かっているみたいだしね」
ラルは少年の美しい金髪に翡翠の髪留めを差し、前髪が垂れないように留めてあげた。
――あぁ! 可愛い……。本格的に女の子の格好をさせたら、一体どうなっちゃうのかな?
「髪留めですか? 有難うございます! 」
サントが嬉しそうに視線を上げる。
期せずして上目遣いのようになった少年を見て、女魔術士は鼻血が出そうなほどの衝撃を受け膝から崩れ落ちる。
――あっ、まるで天使だわ。もうこのまま死んでもいい。
「大丈夫てすか?」
サントが心配そうに覗き込む。
――これから地下迷宮に行くんだから、五つ星として恥ずかしくない振る舞いをしなくちゃ!
「こっ、これくらい心配ないわ。さあ迷宮の入口まで行きましょうか」
ラルは鼻を押さえながら立ち上がると、フラつきながらも髪留めの代金を支払って店外へと出た。
地下迷宮の受付は広場の中心にある、転送塔と呼ばれる施設と一体になっていた。転送塔の中に主基準点が存在していた。
管理者から第5層までの通行証を受け取るとサントはラルの方へを振り返る。
「ラルさん、第5層までは出現するモンスターの種類は変わらないですけど、何層まで行かれますか?」
「とりあえず人が少ない場所がいいから、一番深い第5階層へ行きましょうか。そこまでいけば人もいないでしょ?」
「えぇ、第5階層からは二つ星以上のメンバーがいないと入れないので、基本的にテッドさん達かカインさん達のパーティー以外はいません。両方とも今日は地下に潜っていないので誰もいないはずです」
「了解。カインってのは、さっきクビにされたパーティーのこと?」
「えぇ、そうです。せっかくギルド長の推薦で二つ星のパーティーに入れて貰ったんですけど、荷物持ちにも成れなかったみたいです」
「じゃあ、後でしっかり借りを返してあげないとね。私が鍛えればデュオぐらいあっと言う間よ。それで第5階層までは瞬間移動で行けるのかしら?」
「はい。すでに基準点が出来ているので、第5階層の入り口まで行けます」
「そう、わかったわ。ちなみにサント君は何階層まで行ったことがあるの?」
「僕はカインさん達のパーティーで第8階層まで行きました。現在の最下層はカインパーティーとテッドパーティーが攻略中の第8階層になります。ちなみに歴代の最高到達地点は、ブランブロールという冒険者の第15階層です」
「なるほどね。じゃあ行こっか?」
「わかりました。では第5階層の基準点につなげますね」
転送塔の中にある主基準点に通行証を読み込ませて、第5階層への移動を指示すると、二人は真っ白な光の中へ姿を消した。
ラルは店先に並ぶ色とりどりな商品を前にして、その目を輝かせた。
「やっぱり、そう思いますよね。実はこれ全部、女性冒険者向けの装備品なんです。もちろん全商品に付与魔法が掛かっています。母さんは僕よりもクラフトの技術が高いので、ポーション系よりも武具やアクセサリーの加工品が多いですね」
少年は数枚の色とりどりに加工された革を手にすると、机の上に並べ始めた。ラルの目にもそれらに魔法が付与されているのがわかる。
「うちではオーダーメイド品の作成から、装備を持ち込んで付与魔法だけ掛ける事も出来ます。一番人気があるのは、これみたいな、既製品の装備に付与魔法を掛けた革や布を貼り付けて加工する半オーダーメイドですね」
女性が好みそうな可愛らしいデザインが刻まれた革を、自分の胸当てに重ねて当てて見せるサント。
「自分の装備に付与魔法を掛けてもらうのでは駄目なの?」
「パーツを分けることによって、複数の付与魔法の効果が期待できるんですよ。もちろん、ただ張り合わせただけでは駄目で、母さん独自の手法で仕上げる必要が有るんですけど」
ラルは女性用の胸当てを手に取り、裏表じっくりと確認してみる。
――独自の手法か。だから鑑定の魔法でも見抜けないのかな……。興味あるなぁ。
「母さんが冒険者をやっていた時に、無骨なデザインが多く、女性向けの商品が少ない事が不満だったらしくて、実家のお店を継いでからはもっぱら女性向けの商品を拡充したそうですよ」
「そういえば、ギルド長が代々付与魔法剣士の家系だって言っていたわね。お母様も付与魔法剣士だったの?」
「はい。付与魔法剣士は母方の家系ですね」
「ここの出店には冒険者向けしか置いていませんが、母さんがいる地上のお店には、女性の旅人や商人向けの装備も有りますよ」
「へぇ……えっ、ウソ! KARENの下着も売っているの! これ王都の貴族でも奪い合いになるぐらい、品薄で激レアな商品なのに!」
ラルが柔らかく伸縮性のある下着を掲げ、食い入るように見ている。純白の下着が魔術師の手によってヒラヒラと舞った。
「あっ、それは母さんの工房で作っているブランドですね。KARENは母さんの名前なので……。男の僕としては、商品説明するのが少し恥ずかしいですけど。それらも冒険者時代に必要だったって、嘆いていましたよ」
「あ……分かる気がするわ。女の子には特有の悩みが有るからね。って、サント君がKARENの息子!? そもそもKARENって冒険者だったの?」
「あはは。僕も知らないですけど、母さんは通り名で登録していたみたいですから。でも、元三つ星だったらしいですよ」
「元三つ星でこんな可愛らしい趣味の冒険者なんて居たかな? 後で是非ともKARENさんに会わせてちょうだいね」
「こちらこそ、五つ星の方に使って貰えたら、母さんも喜ぶと思いますよ」
でも、とサントが申し訳無さそうに続ける。
「ラルさん、そろそろ地下に行かないと今日中に帰って来られなくなりますよ」
「あぁ、そうね。まだサント君に何も買ってあげていなかったわね……。これなんかどうかしら? サント君の金髪に似合いそうじゃない? 幸運値の付与魔法も掛かっているみたいだしね」
ラルは少年の美しい金髪に翡翠の髪留めを差し、前髪が垂れないように留めてあげた。
――あぁ! 可愛い……。本格的に女の子の格好をさせたら、一体どうなっちゃうのかな?
「髪留めですか? 有難うございます! 」
サントが嬉しそうに視線を上げる。
期せずして上目遣いのようになった少年を見て、女魔術士は鼻血が出そうなほどの衝撃を受け膝から崩れ落ちる。
――あっ、まるで天使だわ。もうこのまま死んでもいい。
「大丈夫てすか?」
サントが心配そうに覗き込む。
――これから地下迷宮に行くんだから、五つ星として恥ずかしくない振る舞いをしなくちゃ!
「こっ、これくらい心配ないわ。さあ迷宮の入口まで行きましょうか」
ラルは鼻を押さえながら立ち上がると、フラつきながらも髪留めの代金を支払って店外へと出た。
地下迷宮の受付は広場の中心にある、転送塔と呼ばれる施設と一体になっていた。転送塔の中に主基準点が存在していた。
管理者から第5層までの通行証を受け取るとサントはラルの方へを振り返る。
「ラルさん、第5層までは出現するモンスターの種類は変わらないですけど、何層まで行かれますか?」
「とりあえず人が少ない場所がいいから、一番深い第5階層へ行きましょうか。そこまでいけば人もいないでしょ?」
「えぇ、第5階層からは二つ星以上のメンバーがいないと入れないので、基本的にテッドさん達かカインさん達のパーティー以外はいません。両方とも今日は地下に潜っていないので誰もいないはずです」
「了解。カインってのは、さっきクビにされたパーティーのこと?」
「えぇ、そうです。せっかくギルド長の推薦で二つ星のパーティーに入れて貰ったんですけど、荷物持ちにも成れなかったみたいです」
「じゃあ、後でしっかり借りを返してあげないとね。私が鍛えればデュオぐらいあっと言う間よ。それで第5階層までは瞬間移動で行けるのかしら?」
「はい。すでに基準点が出来ているので、第5階層の入り口まで行けます」
「そう、わかったわ。ちなみにサント君は何階層まで行ったことがあるの?」
「僕はカインさん達のパーティーで第8階層まで行きました。現在の最下層はカインパーティーとテッドパーティーが攻略中の第8階層になります。ちなみに歴代の最高到達地点は、ブランブロールという冒険者の第15階層です」
「なるほどね。じゃあ行こっか?」
「わかりました。では第5階層の基準点につなげますね」
転送塔の中にある主基準点に通行証を読み込ませて、第5階層への移動を指示すると、二人は真っ白な光の中へ姿を消した。